フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々

ためつすがめつ

こんにちは。フォトグラファーの武藤奈緒美こと、むーちょです。

友人夫妻のカフェギャラリーが場所を移し、6月半ばにリニューアルオープンと相成りました。

 

2020年春から始まった古民家のリノベーション作業に私も週末ごとに参加しました。緊急事態宣言で仕事が止まり時間ができたのがきっかけでしたが、その作業は未だ経験したことのない類のものだったので、つまりは好奇心に駆られたわけです。

作業仲間は友人夫妻と地元の若きクリエイターたち。時々ふらっと手伝いにくるご近所さんもちらほら。

納屋の天井剥がしに始まり、竹林の整備や枯れ木の焼却、地面に埋まった根っこ掘りなど、地べたまわりの作業ひととおり。

冬場はそれらに加え土木の職人さんの指導のもと、室(むろ)の跡地に使う大谷石の切り出しや運搬、積み上げ。

大工さんの手で母屋が整ってきた春以降は壁のパテ塗りや磨き、床板塗りや壁紙貼りなどの内装まわり。

素人でも手伝える作業にさまざま関わらせてもらって、仕事とはまた別の充実した時間を過ごしました。

竹林ビューのカフェスペース

大学を卒業して以降、修行期間中もフォトグラファーとして独立してからも、プライベートの充実よりも仕事の方を常に優先して過ごしてきました。

個人事業主ですから仕事があり続ける保証はどこにもない。いつなくなるかわからないのだから集中しなくてはと、いつもそう思ってきました。

なのに肝心の仕事がパタリと止まった。仕事だけじゃない、日本中どころか世界中であらゆる動きが止まった。

こうなると如何ともしがたいわけで、白場だらけのスケジュール帳を見て笑っちゃうくらい開き直れました。同時に、自分が選んだ仕事がなんと危ういものかということもよくよくわかったのです。そこに友人夫妻のリノベーション話が伝わってきて、体力だけはあるぞ私も手伝いたいと申し出ました。

庭から眺めたギャラリースペース。後方の白壁は漆喰

「山活動」と呼んでいたそこでの作業では、何を燃やしたら効率よく火が回るかとか、どう塩梅すれば外壁用の板を速やかに塗れるかとか、そんなことばかり考えていました。家にこもっていたらおそらく、考えても詮ないことばかり考えてしまったことでしょう。

杉の葉っぱは脂っ気があって着火しやすいとか、竹の節に穴を開けないと燃やしている最中に破裂音が出るとか、猪が掘った穴にはヒルが落ちているとか、とにかく初めて知ることだらけ。

でもきっとこれらは山の常識なのでしょう。何にも知らないことが恥ずかしく、そして身体でもって知っていくことに悦びを憶えました。

 

初めてといえば、ヒルの吸い付きに度々見舞われました。

映画「スタンドバイミー」に森の中でヒルがバラバラと落ちてくるシーンがあり、そのヒルが手の平サイズぐらいだったように記憶していたのですが、山活動で遭遇したヒルは小さなナメクジサイズほどで、まあ見ようによってはかわいいと言えなくもない。

慣れるにつれ、「今、ちくっとした!」と袖や裾をまくり上げるとそこにはヒルがいて、自然の中で皮膚感覚が冴えていたのでしょうか、ふだんの暮らしに活きるかどうかはともかく、ヒルの気配に即座に気付くようになりました。

若きクリエイターたちは美大卒ぞろいで私よりひとまわり以上若く、「美大」というものに憧れを抱いていた私としては、彼らのものの見方や考え方、美意識などにとても興味があって、やたら話しかけていたように思います。優しくて柔軟性があり、よく気が付く人ばかりです。

昼とおやつには友人お手製の食事やスイーツが並び、日没に作業を終え頭と顔をじゃぶじゃぶ水洗いし、毎回我が身から漂う燻し臭を感じながら帰路につきました。

そんな日々、あっという間の一年でした。

いよいよギャラリーカフェのオープン前日。

友人はギャラリーに展示する作家さんたちの作品を並べながら、「みんなコロナで展示会がなくなったりしていたせいかな、いつもより多く作ってる。力作ぞろい!」と目の下に寝不足の隈を作りながらも楽しげで。

私は展示台や棚に次々と収まっていくそれらをためつすがめつしげしげと見つめながら、時に指でなぞり手に取りつつ、内側からふつふつとわき起こる物欲を抑えるのに必死で。

このギャラリーの展示案内用写真をこれまで何度か撮影しているので、作品を目にしたことがある作家さんばかり。親しみもひとしお、どの作家さんの作品も我が家にお招きするべき道具に思えてくる。ああ、迷う。この手触りの気持ち良さったらない。ああ、ここの焼き目の部分は宇宙のように見える。私の素朴な料理もこの皿に盛ったら映えるにちがいない。こんな花器飾っておいたら素敵な景色ができそう。この竹籠は見せる収納にしたいなあ・・・などと心の中でずっとひとりごちておりました。

空間とそこに展示される作品たちとのマッチングが毎回素敵で、見るたびに友人のセンスに拍手喝采を送っています。

作品たちは個としてそれぞれ確立しているけれど、配置されることでほかの作品や空間と共鳴し合って新たな魅力を放ち始めます。

美しい空間が再び生まれ呼吸を再開しました。

おかえりstudio fujino。

 

gallery studio fujino

www.studiofujino.com

神奈川県相模原市緑区牧野3613
7/4まで「ReOpenExhibision ’Real'」
12:00-17:00(会期中水曜休廊)
それ以降の営業については info@studiofujino.com にお問い合わせください。

★最新情報は公式インスタグラムからどうぞ。

 

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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