フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

2022年をかえりみる

フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

この原稿を書いている今日は12月20日。2022年の総括をする頃合いなのは重々承知なのですが、その状況に全く辿り着けていないということだけは認識しております・・・。

 

11月に入ったあたりからでしょうか、毎日が容赦なくひゅんひゅんと過ぎていく気がしていました。それはスマートフォンの画面を人差し指で右にすっと払うと次のページがたちどころにあらわれる、あれにとてもよく似た感覚で、そのスピードが12月に入って加速している気がしてならない。

 

今年こそは気を抜かず片付けることをひとつひとつちゃっちゃと済ませていこう、残り10日になってあわあわしないようにとちゃんとちゃんとやってきたつもりですが、ここにきてやっぱりどうにも時間が足りないようです。

なので終わりそうもない納品作業の手をちょっと止めて。

 

今年はたくさんのポートレイトを撮りました。つまりたくさんの人と会ったと言えるかと思います。新型コロナウイルスの影響でまだ油断ならない日々が続いている中、プライベートでと会うのはどうもいまいち積極的にはなれない、どこか遠慮や躊躇がある。でも仕事という大義名分ありきで会うことは活発な一年でした。たくさんの撮る機会をいただきました。お互いマスク顔で挨拶をし、撮影するときには相手にマスクを外していただく。2020年や2021年にはマスクをしたままのインタビュー撮影なんてことがしょっちゅうあって、は目だけでも十分伝える力があるものだなと思ったんです。でもいざマスクを外しての撮影に戻ってみると、やっぱり顔全体が見えると伝える力は目だけの比じゃないし、口元が見えるというのは安心するものだなと改めて知ることとなりました。

 

マスクを着けるのがデフォルトな日々だけれど、撮影のときにはマスクから逃れた伸び伸びした表情を撮りたい。そう意識し、そういう表情にいざなうように言葉をかけてシャッターを切った一年。

たくさんのの表情がはねる瞬間を撮ることに集中した一年。

やっとリニューアルできたウェブサイトはポートレイト写真を見せることに重点を置き、を撮るということへの意識が今まで以上に強まった一年。

自己マンネリになるのはイヤだから人物撮影を自分の中でパターン化することは避け、毎回目の前のそのに新鮮な気持ちで向き合おう。

このはどう接すれば自然で素敵な表情を見せてくれるだろうと考えをめぐらす。そうしたことはもう何年も意識して続けてきたことですが、新型コロナウイルスというのはそうした意識をさらに強めるきっかけになりました。

今年は例年にないほど落語家さんたちからの撮影依頼が多かった一年でした。いわゆる「宣材撮影」の依頼だったのですが、通りいっぺんの「宣材写真」・・・いわゆる目線ありのバストアップ写真を撮るだけでは飽き足らず、しかも今は皆さん自身のウェブサイトを持ち複数のSNSでアカウントを持っているので、写真のバリエーションはあるに越したことがないだろうと見込んで、その都度プラスαの提案をしてきました。もちろん相手にとっていろいろに使える写真を撮りたいという気持ちあってのことですが、私自身の撮りたい欲も大きかった。

何も今年に限ったことではなく毎回そんな意識で撮ってきたわけですが、そうやって積み重ねてきたことが今年発注の増加という形で返ってきたのかなと思っています。

50代を目前にして、あとどれだけ活発に写真を撮っていけるだろう、いつまでこうして撮影の依頼をいただけるものだろうと考えるようになりました。そしたら、実際に起きていないことを先取りして憂いたり、売れているをやっかんだり、相手の気持ちを勝手に忖度して落ち込んだり・・・つまりネガティブなところに時間や心を割いている場合ではない。今後やりたいと思っていること、読みたいと溜め込んでいる本、してみたい旅・・・どうやったらそれらが叶うかに時間も心も費やすべき、時間は有限なのだからという、至極当然のことを心の底から実感したわけです。これからの自分がどう生きていたいか、そこに意識も時間も集中するべきだと。そこをちゃんと自覚したらそれまでのネガティブな思考パターンとスパッと手を切れました。そう振り返れる一年のなんと尊いことよ。

 

しかし冒頭に戻ります。2022年の時間がここにきて全く足りない。あと10日で今年中に済ませておきたいこと全部を終えられる気が全くしない。

今年の時間の限りはすでに明らかです。脳内でカウントダウンが始まっています。なので手を動かす一方で諦めることも考えておかねばなりません。何を来年に持ち越すか・・・そんなことに気を留めながらもう少し走ってみます。

 

良いお年をお迎えください。

 

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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