フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

見直す日々・その1

フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

まだ新年を迎えた余韻の残る時分のこと。

ノートパソコンが駄目になったりバックアップ用のハードディスクが故障したり等々の不具合が立て続けに起き、修理のために「想定以上にも程がある!」と泣きたくなるような(いや、実際泣いた・・・)出費をしました。しかも修理したもののお粗末な結果で、無駄にお金を費やしてしまった感がいつまでも後を引く始末。

 

「二度と同じ轍を踏んでたまるか!」と、自分の作業環境を一から見直すことに決め、映像の仕事をしているデジタル機器に精通した友人にアドバイスを乞い、パソコンを買い替え、安定したバックアップ用のシステム機器を思いきって導入。その後に写真展の開催もあったりしたので、上半期を振り返ると「お金がやたら出て行った」という実感ばかりが先に立ちます。

 

加えてロシアによるウクライナ侵攻以来、あっちもこっちも値上がりが続いている状況。出ていきまくったお金、終わりの見えない物価高騰、にも関わらず一向に上がらないギャランティ、10月から始まるインボイス・・・そうしたことが自分の身辺に散らばっている中でふっと思いました、これってもしかして今年はすべからく「見直し」をするタイミングなんじゃないかと。そうそう、もうじき50歳になるんだし。

手っ取り早く身のまわりを軽くしよう。何かの比喩ではなくそのまんま物理的な意味で軽くしたい、つまり所有物を減らしたい。所有物というのは本とか衣類とかそういうモノです。これまでもモノが増えすぎたら減らすということはわりとやってきました。なにせ空間にかぎりがある賃貸生活ですから、度を超える溜めこみは生活スペースを脅かすわけです。モノに侵食されて壁も畳も見えないような生活は嫌なので、常にそこそこの快適さ・風通しの良さを感じるくらいの物量をキープしてきました。

今回は意識をさらに進め、50歳から向こうの風景を思い浮かべながらの取捨選択をする。本ひとつとっても、50歳以降の私の人生にこの物語は必要か、この作者の言葉は必要か・・・できればそこまで踏み込んで想像し見直していきたい。「50歳から向こうの風景を思い浮かべる」これを指針としました。

本。まだ見直し初期にも関わらず、さらっと本棚を眺めただけであっという間にダンボール3箱分の本が出ました。資料用に買った本、友人から回ってきた婚活本、出版社や著者から送られてきたものの関心がもてなかった本、プレゼントされたハードルの高いレシピ本、揃えている途中で飽きた漫画、買ったけどピンとこなかった写真集、一時期大はまりした新撰組関係の本・・・これらはまとめて以前チラシで知った六畳ブックに引き取りにきてもらいました。手をつけてない本が半分くらいあったか・・・50年自分自身と付き合ってみた結果この先も関心が向かないだろうと判断したわけです。半世紀というのはある種の確信がもてる歳月だなと妙に納得すると同時に、時間の限りがやけに意識され、これから一体どれくらいの本が読めるだろうと焦る気持ちにもなりました。

衣類。本と同様に50歳以降の私の人生にこの服は必要か、この先もこの服に包まれたいか、この服は老いに向かう私の気持ちを上げてくれるか・・・そんなことを考えながら春物をしまい夏物を出したら、さしあたって新しい服はいらないと思えました。今はこれから何を着ていきたいかをイメージするいわば過渡期なわけで、この服でいくんだと思えるモノに出逢えるまでは今までの洋服を整理しながら着ていく。着るものを年齢相応かどうかという視点ではなく、自分のパフォーマンス重視の視点だけで選べる職業なので、母が50代の頃には着ていなかったような服だらけです。スカートなんて1枚もない!30代半ばに着付けを覚えてから、スカートをはくような機会にはキモノを着ればいいからと、仕事で着たい服のみに絞ってきました。気に入って買ったものの何度か着てみて体型とか骨格とかに合わない服は傷まないうちに若い人に譲っているのですが、ふだんから年齢相応かどうかで選んでないおかげで重宝してもらえてます。

 

涙涙の大出費に続く作業環境の見直しから始まった「2023年見直しの旅」、まだまだ続きます。

 
 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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