健康情報

【対談】次の世代の未来を作る生殖医療の最先端~亀田IVFクリニック幕張院長 川井清考医師~

6~7組のカップルの内1組は悩む不妊症。
「不妊は病気」と認識し、介入を避けるのが優しさです。

ゲスト:川井清考医師(左) 医療法人鉄蕉会亀田IVFクリニック幕張院長、医学博士。生殖医療専門医として診療に携わるなか、臨床以外では、受精卵の遺伝子研究を長年続けてきた経験をもとに企業や大学との共同研究に従事。将来妊娠を望まれる若い世代の方々に対して、がん・生殖医療に関する啓発活動も行う。

木下 川井先生とは10年来のお付き合いをさせていただいております。先生は生殖医療の専門医としてご活躍されていますが、生殖医療の道に携わるようになった理由をお聞かせください。

川井 医師は治療で患者さんに貢献することが仕事ですが、「貢献」には三つのパターンがあると思っています。一つ目は自分の同年代に対して、二つ目は親世代に対して、三つ目は次の世代に対してです。研修医をしながら自分の過去を振り返った際、私自身はこれまで年上の方々に多く応援していただいてきたので、私も、次の世代に貢献し、恩返ししていきたいと強く思うようになったのが生殖医療を志した理由です。

木下 私たちのお客さまは年齢を重ねられた方も多く、不妊治療と言ってもピンと来ない方がいらっしゃると思います。一方でお子さまの世代にも関わる大切なことなので、基本的なところから教えていただけますか。

川井 まず、不妊というのは病気であるという認識が大事です。現在日本では、6~7組に1組くらいが不妊症と言われており、みなさんの想像以上に悩まれている方が多くいらっしゃいます。「結婚したら子供ができるのは当たり前」ではなく、不妊は本人ではどうしようもないことでもあるので、責めるのはもちろん、過剰に介入することはやめたほうがいいでしょう。一般的に妊娠を計画して夫婦生活をもつと、半年で80%くらいの割合で妊娠しますが、その期間を経ても子供を授からなかった場合、別のアプローチが必要になる可能性があります。

木下 いわゆる不妊治療というものですね。一般的にはどんなことが原因なのでしょうか?

川井 解明されている原因としては女性側に起因することが多いですが、もちろん男性側の原因もあります。10年前は不妊治療といえば女性の問題といった認識が社会的にあり、女性だけで受診されることが多かったのですが、今ではカップルで来られるケースが増えています。

木下 年齢も影響しますよね。以前参加した学会では、36歳を超えると妊娠する可能性が大きく下がるのに、その認知が日本ではまだ低いと言われていました。

川井 そうですね。想定される原因も年齢によって異なってきます。40代だと卵子の染色体の問題があるかもしれないとか、20代だと卵管の詰まりや、精子の量が少ないなどが考えられます。ただやはり不妊の原因には個人差がありますので、挙児希望をされたのになかなか妊娠をしない場合は受診いただくのが一番だと思います。

木下 日本では経済的な事情による晩婚化もあり、難しい面もありますからね。これまで多くの方を診療されてきた先生が、大切にしていることとは?

川井 患者さんの意思決定を尊重する、ということですね。この判断が難しいんです。カップルの方々の気持ちはもちろん、これから生まれてくる赤ちゃんの立場になって考える必要もあります。そして、患者さんの気持ちに寄り添いつつも、プロの医療従事者として、現実的に、冷静に判断することも大切にしています。

「子供はまだなの?」
悪気のない一言でもカップルを傷つけてしまいます。

木下 川井先生の専門は不妊治療ですね。治療には大きな負担がかかると言われています。実際どのようなものがあるのでしょうか。

川井 大きいのは経済的な負担ですね。クリニックにより値段は異なるため目安として、まずタイミング法の指導や原因の精査で約3カ月にわたって月に2~5万円かかります。タイミング法だけでは妊娠しないと、次は人工授精となりこちらも月々2~4万円程度が必要。それでも難しい場合は、体外受精を行うことに。1~2カ月に1回40~60万円がかかります。

木下 そんな方たちをサポートするための保険制度の変更が話題ですね。

川井 はい。これまで保険の適用外だった人工授精や体外受精が今年の4月から適用になります。(取材時、2022年1月時点で)まだ正式な割合は決まっていませんが、少しでも患者さんの負担を減らせるといいですね。

木下 それから不妊治療は精神的な負担も大きいですよね。

川井 特に、仕事と治療を両立する場合、ストレスは大きくなりがちです。不妊治療は、女性の月経周期に合わせて急に来院いただく場合もあります。そのため、出張や会議などのスケジュール調整で、周囲に理解が得られないのではないか、迷惑をかけているのではないかと悩んでしまうことも多いのです。また、周囲からの「子供はまだなの?」という言葉や、不妊治療に過剰に介入することもカップルを傷つけることがあります。

木下 私は息子が2人いますが、もともと4年間ぐらい子供ができなかったんです。なので、周囲からそういった言葉を聞くこともありました。私はあまり気になりませんでしたが、パートナーが悲しむ姿を目にしたのはつらかったですね。

川井 悪気のない言葉であっても、傷つけてしまうことがあるので注意したいですね。子供を作るかどうかも含めて、カップルに任せておくのが大切だと思います。

木下 近年では、不妊治療の技術を応用し、がんがあっても将来妊娠・出産ができるように準備する、妊孕性温存治療と呼ばれる、先進的な取り組みをされているそうですね。

川井 がん治療も進歩し、患者さんの生存率が高くなっています。しかし、がん治療をすると、他の正常な体の機能にまで影響が出てしまうことがあります。特に、卵子や精子は繊細なため、将来子供ができなくなってしまった方も多くいらっしゃいます。そこで、がん治療をする前に、卵子や精子、卵巣組織などを取り出し凍結、がん治療を終えたあと、体内に戻し、妊娠や出産を目指す治療を行っています。

木下 先生のお話を伺って改めて感じたのは、生殖医療は、次の世代の未来を作るということ。私自身は、今を生きている方が長寿をまっとうできるよう病気の予防を応援していきます。

川井 妊娠にとってもカップルの健康が一番重要なんです。病気の予防を心掛け、食事に気をつけ、健康的に生きることは世代を問わず大切なことですね。

木下 本日はありがとうございました。

 

Biography

川井 清考先生

Dr Kiyotaka Kawai
医療法人鉄蕉会亀田IVFクリニック幕張院長、医学博士。生殖医療専門医として診療に携わるなか、臨床以外では、受精卵の遺伝子研究を長年続けてきた経験をもとに企業や大学との共同研究に従事。将来妊娠を望まれる若い世代の方々に対して、がん・生殖医療に関する啓発活動も行う。

 

木下 弘貴

イマジン・グローバル・ケア代表取締役
1967年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。調剤薬局を開業し、110店舗まで拡大。東京大学大学院医学系研究科修了。保健学博士。2006年イマジン・グローバル・ケア株式会社設立。

 

 

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