保健学博士であり、イマジン・グローバル・ケア代表の木下弘貴が、“健康”をキーワードに各界の著名人と対談。
皆さんと一緒に、健康に暮らすためのヒントを探っていきます。
体のためには毎日、〝全集中の呼吸〟を。
木下 小林先生は自律神経のスペシャリストでいらっしゃいます。先生が提唱する〝呼吸〟や〝腸内環境〟の大切さについて教えてください。
小林 内臓の働きや血流をコントロールしているのが自律神経です。私の〝健康〟の定義は、「一つひとつの細胞に、どれだけ質のいい血液を十分に流すことができるか」。血液の〝質〟を決めるのは腸内環境、血液の〝量〟を決めるのが自律神経です。そして自律神経を整えるために重要なのが呼吸です。
木下 腸内環境を整えることの大切さは後ほど詳しくお聞きしますが、呼吸も大切なのですね。
小林 アニメ『鬼滅の刃』をご覧になったことがありますか? 実は「呼吸」がとても重要なキーワードになっています。『鬼滅の刃』はひと言でいえば〝鬼退治〟の話なのですが(笑)、主人公は鬼と戦う際に、〝全集中の呼吸〟をします。
木下 菅総理(当時)の国会答弁でも話題になりましたね。
小林 〝全集中の呼吸〟は「体の隅々の細胞まで酸素が行き渡るよう、長い呼吸を意識しろ。体の自然治癒力を高め、精神の安定化と活性化をもたらす」と説明されています。ふだん意識することはほとんどないと思うのですが、人が生きていくうえでいちばん重要なのが呼吸です。
木下 たしかに、呼吸を意識することは、あまりないですね。
小林 呼吸の乱れは自律神経の乱れともいわれます。私たちはストレスを感じると交感神経が高まって、無意識に呼吸が浅くなります。一方、深くゆっくりとした呼吸をすると、副交感神経の働きを高めることができます。血管が広がって血流が良くなり、心身がリラックスした状態になる。自律神経を整えるためには、深い呼吸をすることが大切なのです。
木下 なるほど、まさに〝全集中の呼吸〟で説明されていることです。
小林 コロナ禍で、「痩せて健康になった人」と「太って健康を害した人」がいます。私自身もそうですが、夜の会食がなくなって食べる量が減ったり、規則正しい生活のリズムを取り戻したりした人は健康になっています。
木下 私の場合は、緊急事態宣言でスポーツジムが閉鎖されたとき、自宅で筋トレを多くするようになったので、筋肉が増えました。
小林 運動も大切ですね。太って健康を害した人は、外出が減って動かなくなったり、就寝や起床の時間のリズムが崩れたり、人とのコミュニケーションが減ってストレスが増えたことが原因と考えられます。
木下 生活習慣の悪化によって、自律神経が乱れてしまったということですね。
小林 コロナ禍ではまた、外出自粛で歩かなくなったために筋力が衰えて転倒をしてしまう人や、自殺者が増えているのも問題です。最終的には、自分の身を守るのは自分しかいません。
木下 身を守るため、何をしたらいいのでしょうか。
小林 それが呼吸です。腸や血管は自分の意思で動かすことはできませんが、呼吸は唯一、自分でコントロールできるもの。呼吸を意識して、自律神経を整えていくことが大切なのです。
あなたにとって〝今日がいちばん若い日〟です。
小林 新型コロナウイルスにかかる人とかからない人がいますが、その違いは腸内環境だと考えています。私たちの体内では、敵であるウイルスが入ってくると、「免疫細胞」が攻撃をしに行きます。この免疫細胞たちをコントロールしているのが「Tレグ(制御性T細胞)」です。新型コロナウイルスにかかり、さらに重症化する人の場合、このTレグが少ないために機能せず、敵のウイルスだけでなく味方まで攻撃してしまっていると考えられます。
木下 免疫が過剰に反応して細胞を攻撃してしまう「サイトカインストーム」ですね。
小林 このTレグは腸内にたくさんいて、増やすためには腸内環境を良くしなければなりません。高齢者や肥満の方、糖尿病の方は重症化しやすいといわれていますが、それはひとつに、腸内環境が悪化している場
合が多いためです。
木下 腸内環境を整えるのに、食事で気を付ける点はあるのでしょうか?
小林 脂質、たんぱく質、糖質と、バランスよく摂ることが重要です。そしてヨーグルトやみそ汁、キムチなどの発酵食品と、食物繊維を取り入れること。第二次世界大戦前後は、日本人は多くの食物繊維を摂っていました。それがどんどん西洋型の食事が入ってきて食物繊維の摂取量が減り、そして生まれたのが大腸がんや生活習慣病です。大腸がんは、がんで亡くなる女性の死因の1位。食生活を見直すことはとても大切なのです。木下さんは何か気を付けていますか?
木下 野菜やキノコ、海藻類が好きで、よく食べます。食事では野菜から食べ始めるように心掛けていますね。
小林 いいですね。食事のほかに、腸内環境を良くするには腸のマッサージや運動も大切です。腸は外から触って刺激をすると動き出す内臓なんです。
木下 ご紹介いただいたこの腸のストレッチ(ページ下部参照)ですね。
小林 それから運動は、エスカレーターではなく階段を使うといった、日常で出来る程度で十分。私は電車に乗る際は、座らないようにしています。
木下 食事に運動、そのほかにありますか?
小林 腸の働きには自律神経が深く関わっていて、自律神経を安定させるには質の良い睡眠も欠かせません。大切なのは体内時計のリズムに合わせて生活をすること。このリズムが崩れている方は、夕食の時間と就寝の時間を決めてしまうことです。そして夕食は就寝の3時間前に終わらせておく。夕食後は湯船につかって深部体温を上げることで、質のいい睡眠につながります。
木下 ストレスで自律神経が乱れると聞きますが。
小林 よく「心技体」と言いますが、私は「体技心」だと考えています。ストレスを受けとめるのは、「心」ではなく「体」。食事や運動、睡眠で作られた体がしっかりしていれば、ストレスに打ち克つことができます。体が健康になれば心も健康になるのです。誰しも、〝今日がいちばん若い日〟。だから〝今〟を輝かせることが、明るい未来につながります。
木下 今日がいちばん若い日、素敵なお言葉を頂戴しました。本日はありがとうございます。
※本インタビューは2020年11月に取材に基づく内容です。
小林弘幸先生直伝!自律神経を整える呼吸法&腸ストレッチ
Biography
小林弘幸先生
Dr Hiroyuki Kobayashi
日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1992 年に順天堂大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学病院管理学教授に就任。国内における自律神経研究の第一人者。
木下 弘貴
イマジン・グローバル・ケア代表取締役
1967年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。調剤薬局を開業し、110店舗まで拡大。東京大学大学院医学系研究科修了。保健学博士。2006年イマジン・グローバル・ケア株式会社設立。