フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

漫画をむさぼり読む

フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

金木犀の香りとともに10月がやってきました。

今年が残り3ヶ月を切ったとは・・・この、「夏が終わって秋が来た」を実感した瞬間に気付くのです、年末がもうすぐだということを。

 

8月1日の公開に向け、ウェブサイトのリニューアル作業に励んでいた頃。

今度こそなんとしてもリニューアルを成し遂げるのだ!と仕事以外の外出(主に落語を聴きに行く)を封印し、作業の合間に漫画を読んで一息つくことで遊びに行きたい欲をなだめ、なんとかリニューアルにこぎ着けました。

 

真夏の頃の私は、漫画を読むのがすっかり日常化していました。中でもとりわけ「ゴールデンカムイ」(野田サトル)にはまり込み、アイヌ文化に関する本をいくつか読み、アイヌに関する記録映画を観ました。そう、今年が残り4ヶ月だと意識もせず・・・。

 

9月は撮影の嵐、納品の嵐で、その息抜きにやっぱり漫画を読んでいました。完結している漫画では飽き足らず、現在進行形の作品に手を出しており、気付けば続編待ちしているのが両手の指で足りない。久しぶりに新刊が出ると、それまでの内容を確認するべく読み直すという作業が追加されました。

 

そして10月。冒頭に戻ります。3ヶ月を切ってしまった、今年が!

私の脳内で漫画の登場人物たちが将棋をさしたり(「3月のライオン」羽海野チカ)、絵と格闘していたり(「ブルーピリオド」山口つばさ)、ベリーダンスを踊ったり(「セクシー田中さん」芦原妃名子)、漫画を描いたり(「ローズローズィローズフルバッド」いくえみ綾)」、謎を解いたり(「ミステリと言う勿れ」田村由美)・・・しながら停止している(=続編待ち状態)、そんな10月を迎えました。

ですが、茨の道に違いないその道(漫画家)で飯を食っていくと腹を括った人たちが創作したものというのは、読む側の時間を奪う一方なのではなく、たくさんのギフトとしか呼べないようなものを与えてくれることを実感しまくっているのも事実です。

 

例えば視点。

「ゴールデンカムイ」を読みながら、「このアングル、かっこいい!」「こういう切り取り方をすると躍動感が増すなあ」等々、ビジュアルの見せ方に発見や感激が多く、新しいカメラアングルに繋がりそう。

 

例えば好奇心。

「3月のライオン」を読みながら、将棋に興味がわきました。対局シーンがたくさんありその都度状況説明が入るので、ルールはまだ覚えられていないものの、将棋の記事を読んで少しだけ理解できるようになりました。

そして、棋士の方が対局の際に着物をお召しになることを知り、これまでは伝統芸能の方々の着物姿にばかりうっとりしていたのですが、これからは棋士の方々の着物姿も楽しみに。

 

写真を撮ることを生業にしている私には殊更に栄養になると思うのです。漫画をむさぼり読む時間は現実逃避ばかりじゃない!はずだ。

先日、若手落語家・林家あんこさんから撮影依頼をいただきました。

彼女は葛飾北斎の娘、浮世絵師・葛飾応為を主人公に据えた落語を創作している最中で、出来上がった一話目をすでにご自身の高座で披露し、日々噺に磨きをかけていらっしゃいます。

今回はその、落語「北斎の娘」に関するビジュアルの依頼でした。

葛飾応為の存在は知っていました、漫画「百日紅」(杉浦日向子)や小説「眩」(朝井まかて)を読んでいたので。

 

あんこさんから応為を題材にすることにした経緯や、現状と今後の展開について考えていることを伺った後、すみだ親善大使をしている彼女と応為の接点にあたる墨田区を散歩しながら撮影しました。夏の日差しと浴衣姿、場所は区内の戦災を奇跡的に免れたエリア・・・さすがに応為の生きた江戸末期の風情というわけにはいきませんが昭和の気配が残っていて、現在と応為の生きた時代とを落語で橋渡しする、その案内人・林家あんこさん、というビジュアル。

スタジオでも撮影しました。どう撮ろうか考えていたところ具体的なイメージがぱっと浮かびました。前出の漫画「3月のライオン」で、強く印象に残っていた主人公・プロ棋士桐山君の脳内イメージ的な場面が大いなるヒントに。思い浮かんだイメージに寄せるためスタジオに仕込みをしたものの、写真にしたところでいい塩梅になるか未知数でしたが、テスト撮りして思わず2人で「おーっ!」。あんこさんと応為がクロスするビジュアルになったんじゃないの!と小躍り。この写真を使ってこんなチラシのデザインにするのはどうだろうと先々の話もでき、前向きな気持ちと高揚感で撮影を終えられました。

現実逃避するようにむさぼり読んでいる漫画たち。そうして日々目にしたものが栄養となり自分の仕事に活きている。今回はそんなお話。

(墨田区向島の言問団子。江戸末期創業。応為も食べたかも)

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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