こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

4月も下旬にさしかかる頃、首都圏にある中高一貫女子校の撮影に行ってきました。もう何年も、この時期に制作会社のディレクター氏から撮影の連絡をいただいてますが、今年も無事依頼があったことにまずは安堵。そこへ、今年は写真のみならず動画の撮影もお願いしますとの要望がありました。

毎年2人のフォトグラファーで手分けして撮影するこの現場、一方のフォトグラファー氏は2年前から写真と並行して動画も撮っており、去年の時点でディレクター氏からは「武藤さんも来年は動画を撮れるようにしておいてくださいね」と言われていたのでした。

はい、この1年で動画を撮りましたとも、しかもけっこうハードな現場で。iPhone13を使ってですけども・・・。

 

一眼デジタルカメラで動画を撮ったことも過去にはありますが、しばらく間が空いていたので、取説を読んで動画用の設定を確認するところから着手です。日常事にならないとすぐ忘れちゃうんです、機械モノにはどうにも苦手意識があるからなかなか染み込まない。

わたしが担当する動画は、対象の動きに合わせ追っかけて撮るのではなく、三脚を据えてじっくり撮るというもの。

2日間の撮影の初日。左肩に写真用のカメラを下げ、右手で動画用カメラをセットした三脚を持ち、指定された授業を撮影します。

 

黒板に書かれたxとyの方程式を見て、頭の中で解きながら中1の数学ならまだできるぞと思い、顕微鏡を覗いて微生物を探す生物の授業では、レンズを近づけすぎてカバーガラスを割ったことがあったっけなあと思い出し、体育の授業の冒頭でストレッチする生徒たちを見ていたら自分も身体を伸ばしたくなり、後方でこっそりみんなに合わせて。撮影しながら遠い彼方の中学時代を追体験する楽しみがこの現場にはあります。

授業の状況をその都度判断しながら動画に写真にと撮影していたのですが、なんとOFFにしたつもりの動画カメラがONのままになっていた。撮った動画を確認したら、撮るつもりで撮っていた前半部分は何も問題ない。けれど、撮っていないつもりが撮っていた後半部分には、動画カメラの前で写真を撮る自分の後ろ姿がしっかり映っておりました。

 

うっかり自分の背中を映し続けてしまったことで思い出した出来事があります。

 

あれは30代前半の頃だったか。女性ボーカリストのCDジャケットを撮影したことがありました。その際、ビデオ班が撮影の様子を撮り、後日CD発売のイベントでメイキング映像として流したのです。

なにこの、彼女の前でしゃがんでいる黄緑色のかたまりは・・・と思った瞬間、そこに映っているのが自分の背中であると気付き、ひどく衝撃を受けました。もさっとして丸い置物みたいだったのです。

あわわあわわ!

これは30代前半の、世間的には「クリエイター」とか「アーティスト」とかにカテゴリー分けされる、「フォトグラファー」なんていう横文字商売をしている人種の背中ではない!

じつのところこの商売に最も大事なのは健康と体力だったりしますが、世間的にはかっこいい商売のイメージがあるようで。なのに、かっこいいっぽいところが微塵も感じられない背中だったわけです。

あまりの衝撃で、そのとき着ていたセーターはお蔵入り。パリの古着を扱う店で見つけた、きれいな色でお気に入りだったのに。服に罪はないというのに。

 

それからというもの、鏡で見えているところだけに傾けていた意識を後ろ姿にも向けるようになりました。背中が老けて見えないよう、腰を伸ばし肩を開いて姿勢よく。

今回の動画にうっかり映ってしまっていた40代後半の自分の背中は果たしてどうだったか。

しゃんとしていました。30代前半のメイキングに映っていた背中よりは若々しく、現場を楽しみ、(実際はどうあれ)いい写真を撮りそうに見える背中をしていました。うん、これなら「クリエイター」ってカテゴリーに入れてもいいかな。

つまりな、ここからいちばん遠いところ、それが自分の背中なのだよ、いやホントの話。

「クラウド・コレクター〈手帖版〉 雲をつかむような話」

 クラフト・エヴィング商會 ちくま文庫