稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

「日本一」の舘鼻岸壁朝市で、食べ歩きモーニング

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

仕事という名目で、あちこちを旅して歩いているフーテントラベラーの僕ですが、時々「ええ!? 日本にこんなところが!?」と仰天することもあります。今回紹介するのは、青森県八戸市の舘鼻岸壁朝市。市街地から車で10分ほどの場所にある館鼻漁港の岸壁で、3月から12月まで毎週日曜に開催されている朝市です。

▼開催時間は「夜明けから9時ごろ」

舘鼻岸壁朝市は、いわゆる普通の朝市とはまったくの別物。距離800メートルほどの岸壁に沿うように、300を超える店舗が出店し、1日に最大8万人弱のお客さんが押し寄せる、「日本一」とも称される朝市なんです。

規模が巨大なだけじゃありません。売っているものは「食」がメインなんですが、そのほかの出店者もバラエティー豊か、という表現を超えています。

改装した軽トラでミシンを売る人もいれば、枕と布団を売っている人、どこから発掘してきたのかわからないレトロなプラモデルを売っている人、明らかに自作の不思議な形の木工細工もあれば、金魚を売っている人もいます。でも、みんなニコニコでフレンドリー。学生時代にバックパッカーをしていた僕は、アジアやアフリカの市場で体験したオープンで心地よい、なぜか懐かしく感じるカオスを思い出しました。

しかも! この朝市の開催時間は「夜明けから9時ごろ」まで。舘鼻岸壁朝市を主催する湊日曜朝市会の慶長春樹理事長によると、朝の4時過ぎにはすでにお客さんがやってくるそうです。「冬なんて、真っ暗ななか懐中電灯を持ってくる人もいますよ」と笑っていました。懐中電灯の明かりが必要な暗闇のなかで開催される市場は果たして「朝市」なのか、という疑問は置いておいて、凍えるような寒い日の夜明け頃、ばっちり防寒して、白い息を吐きながら、懐中電灯でお店を訪ね歩く自分を想像するとワクワクしませんか?

 

ちなみに僕が取材に行ったのは去年4月。夜明け前に突撃しようと思っていたのに、まさかの寝坊……。朝6時に目を覚ました時には、気持ちのいい青空が(涙)。やばい!っと飛び起きて車に乗り、10分後、館鼻漁港に到着した時に、目を疑いました。まだ6時半前なのに、人、人、人、人! 僕が生きてきた41年間で、早朝にこれだけの人を見たのは初めてのことでした。

前日、理事長に取材した際、「普段の日曜日に約2万人、ゴールデンウイークなどの連休時は約5万人、最大で7万8000人が訪れたことがある」と聞いてもあまり実感がわかなかったんですが、目の当たりにしてみると、それはもう「祭り」の規模でした(笑)。

 

▼アットホームでカオスな雰囲気が生まれた理由

そもそも、この朝市はどのような経緯で始まったのでしょうか? 実はそれほど歴史があるわけではありません。前身は八戸の湊町・山手通りで開催されていた湊日曜朝市。多くの人を集める人気の朝市でしたが、商品が道路にまで溢れ、渋滞を引き起こすようになって警察からストップがかかったそうです。

そこで移転先を探していた「協同組合湊日曜朝市会」が目をつけたのが、館鼻岸壁。もともとは使い古された漁網や廃車、壊れた冷蔵庫などが放置されているようなうらぶれた場所だった岸壁を、きれいに掃除して朝市に使わせてほしいと八戸市に直談判。その結果、2004年6月にスタートしたのが館鼻岸壁朝市です。だから運営主体は今も「協同組合湊日曜朝市会」で、行政が一切タッチしておらず、出店者の審査と管理も同組合が担っています。

同組合は「儲かりそうだから出店したいという人はNG。地元優先で、普段モノを売っている人以外にも『ここで売ってみたら?』と声をかけてきた」そうです。出店料を年間1万3000円に抑えて出店者を幅広く募り、「地元密着」を優先したことが、現在のアットホームでカオスな雰囲気を生んだのでしょう。

 

8万人を惹きつける館鼻岸壁朝市の一番の魅力は、なんといっても食べ歩き。カウント不可能なほど多種多様な食べ物が売られていて、食いしん坊なら万歳したくなる天国のような光景です。取材の日、寝坊して朝食を食べずに行ったのが、大正解。僕が朝市で購入したものを挙げてみましょう。

ひとりで手作り料理を売っていたおばあちゃんのお店で草餅をひとつ、100円也。

1日に100食売れるというインド料理店でタンドリーチキンをひとつ、400円也。

笹でくるまれてしっかり蒸された「うなぎの飯蒸し」ひとつ、380円也。

ビックリするほどジューシーでおいしい無添加のニンジンジュース、330円也。

地元出身の18歳に「絶対食べてください。美味しいです!」と勧められたせんべい汁は価格を忘れました。

朝から食べ過ぎ! と思うかもしれないけど、ひとつずつの量や数がそれほど多くないし、なによりも祭りの夜店と同じように五感(と空腹)をビシビシ刺激されて、ついつい財布のひもが緩むのです。

ちなみに、手作り豆腐の店、焼き立てのパンの店、小籠包の店、塩手羽先の店、ラーメンやそばを売る店など、長い行列ができていて諦めたお店もたくさんありました。

 

▼間違いなく日本一

屋台をのぞきながらブラブラと食べ歩いていたら、あっという間に8時半になっていました。僕はほかの地域の大きな朝市に行ったことはありませんが、少なくとも僕基準では館鼻岸壁朝市は間違いなく日本一です。その多彩な混沌がもたらす出会いの豊かさと楽しさに関して、これ以上の朝市は滅多にないでしょう。

新型コロナウイルス感染症の影響で今年は7月5日からのスタートになりましたが、約280店が出店し、約1万5000人が訪れたと報じられました。非接触型検温システムを入場口3カ所に導入し、1時間の入場者が1000人を超えた場合は入場制限を行うなど、感染防止策も講じているようです。

青森に行った際には、ぜひ館鼻岸壁朝市に寄ってみてください。あ、朝食を抜いていくことをお勧めします。僕は、次こそ夜明け頃に市場に行って、懐中電灯を持ちながら、ホッコリ温かいせんべい汁を食べたいと思います。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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