フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

ライブ鑑賞

こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

先日、大好きなバンドの結成25周年ライブがありました。

ファンになってかれこれ15年。都内でワンマンライブがあるときは必ず足を運んでいましたが、今回はまんまと仕事にぶつかってしまい悔しがっていたところ、後日動画配信があるとのアナウンス。

 

東京というエンタメの集積地で暮らしているので、観たいものは基本的に現場に足を運びます。息を吸うのにもお金がかかると言いたくなる家賃が高い東京に暮らす理由の半分くらいは、こうした生の芸能にたちどころに触れられるからと言っても過言ではありません。

新型コロナウィルスの感染状況がいまだ落ち着かない現状で、ライブと配信とのハイブリッド公演が増えましたが、変わらず率先して現場に赴くのは、観ることに加えその空間に居て何かしら体感するということを私自身とても大事にしているからです。

そもそもこのバンドを知ったきっかけは2003年の映画「ジョゼと虎と魚たち」。当時渋谷はミニシアター花盛りで、私が映画館に足繁く通っていた20代から30代前半の時期と重なります。「ジョゼ・・・」もそこで公開され、出演俳優に惹かれて観に行きました。

物語が終わり、うわぁ・・・と気持ちが映画の中に没入している状況なときに流れてきたのが主題歌で、それを作ったのがくだんのバンドでした。思いきり心を鷲掴みされてしまった。すぐに主題歌CDを購入し、毎日繰り返しこの曲を聴き、その後この曲が入ったこのバンドのアルバムを購入。それも聴くことは聴いたんですが・・・ファンになるのはもう少し後のこと。2003年は「出逢い」の年に過ぎませんでした。

 

2008年、ラジオから流れてきた曲に耳がぴーんと反応しました。JWAVEの夕方の番組で、DJが紹介するバンド名と曲名をメモし、即CDを購入。「ジョゼ・・・」の主題歌のバンドと同じで、今度こそのめり込んだわけです。

何かを好きになるときのエネルギーというのは凄まじい・・・当時の自分を振り返って思うことです。それまでに発売されていたCDとDVDを続々と購入し、彼らが制作に関わったアーティストのCDにまでも手を伸ばしました。ファンになったのが遅れたので、追いついてみせるとばかりに彼らの音楽を耳に身体に染み込ませ、2年ぐらい彼らの音楽しか聴きませんでした。ファンクラブに入会し、東京のみならず近郊で行けそうなライブには積極的に足を運びました。TOWER RECORDSでのイベントやラジオの公開収録にも。あさるというのはこういうことだと言わんばかりにとにかく情報をあさりまくりました。

 

友人たちが結婚して家庭を築いて・・・という30代に私はバンドにのめりこむ。アシスタント時代を送った20代後半はカルチャーにお金を使う余裕がなかった反動もあったんでしょう。周回遅れでまんまとはまりました。そしてそういう自分の状況になんの疑問も不安も覚えなかった・・・まさに渦中です。熱中です。

 

彼らの音楽活動を通してほかのアーティストを知りそっちのライブにも行ってみたり、彼らが衣装で身につけたことでウィーンの素敵な帽子屋さんを知ったり、(彼らの出身地である)京都に行くと歌詞に出てくる地名にどきどきしたり。

そういう時期を経て40代に入るとバンドに対するアクションが徐々に落ち着き、都内のライブと彼ら主催のフェス・京都音博に足を運ぶくらいに治まりました。リリースされる音楽はチェックしますが、情報をあさることは自然としなくなりました。多分、好きであることが私の中に定着したからだと思います。大袈裟に言えば、自分の一部になった。

2021年コロナの感染状況がやや落ち着いていた6月に奇跡的にライブが開催されました。チケットを取ったもののいまいち乗り気になれずにいたのが、前日によくよく確認したら最前列の席が取れていて、それに気づいた瞬間「さて何を着ていこうか」とそわそわし始め、結局きものを着て行ったのですが、着付けをしながらおかしくてたまりませんでした、おしゃれしたところで向こうからは見えないのにね、と。

目の前のステージは思いのほか高く、私の席からはスピーカーの向こうで歌う横からのアングルしか見えなかったのですが、それでも視界いっぱいがステージで、彼らの音楽が降り注ぎ続け、久しぶりのライブが嬉しくて嬉しくて、途中で涙が出てきました。ファンになってからの年月が同時に思い出され感傷的になったことも手伝って。

 

そう、現場に足を運ぶと視界を決めるのは私自身なのです。自分の目に映る景色を決めるのは私なのです。何を見るかどこを集中して見つめるか、それは私の意志で決められます。普段だって当然そうですが、こういう場に行くと普段とは違う恣意的に見るスイッチが作動します。

ですが動画配信だとカメラのレンズが映した世界になり、私のほしいままにとは行かない・・それが私が積極的に現場に足を運びたい理由のひとつです。写真を撮る仕事をしていてこんなことを言うのもなんですが。

 

25周年ライブは配信期間中繰り返し観ました。いや、一度観て、あとはデスクワークをしている間、音声として流していました、ラジオを聴くみたいに。

行きたいのに行けなかったライブがこうして観られるようになった時代にありがたみを覚えながらも、現場に足を運び観たいように観る悦びには変えがたい。その悦びを知った以上、いくつになってもスタンディングのライブに耐えうる足腰を維持していきたいと思うのです。

2022年3月14日、気の早い桜が咲いていました

 

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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