フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

脱・近視眼!

こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

新型コロナウィルスの感染がこれまで以上の勢いで広がっているにもかかわらず、そしてその状況が少なからず仕事に影響するのが予想できるにもかかわらず、どういうわけかこの頃めげることなく気持ちが上向きです(開き直りか)。

その気分に乗じて今まで苦手としてきたことを克服してしまおうという気になり、梅雨明け後の某日曜日にレンタカーでドライブをしてきました。免許を取得して22年、まともに運転した回数は両手で数えられるほど。そう、運転することに大いなる苦手意識がつきまとっているのです。

数年前、友人たちと訪れた奄美大島でのこと。
旅の間ずっと運転を担ってくれていたKちゃんが真っ青な海を見渡せるレストランで「ああ!この海を眺めながらビール飲みたいな」と呟きました。

運転を任せきりだったしあとは空港に戻るだけだしと思い、とっさに「よし、私が運転代わるよ」と申し出ました。このとき10数年ぶりの運転だったかと思います。幸い走っている車も歩行者もほとんどなく無事空港にたどり着いたのですが、助手席に座っていたKちゃんからは「思い切りが足りない」とのダメ出しがありました。

そのKちゃんに再び助手席に座ってもらい、「静かな海がみたい」という彼女の希望を叶えるべく、静かな海・・・この時期東京近郊にそんな海あるのかいなと思いながらもドライブに出かけました。

助手席からは要所要所で彼女の指示が飛んできます。

「ウィンカーが先ね。こっちに行きたいって意思表示が曖昧だと後続車が困るよ」
「カーブ曲がったら加速!」「左に寄ってるよー」「もっと先見て!」

判断が遅いうえに動き出しものろい。運転していて自分でもそのことがよくよくわかっているのにやっぱり遅い。22年前の教習通いの日々が再現されたかのようでした。

「武藤、お前どこ見てんだ?」「近くを見ているからぶれるんだ」
「遠く見ろー」「見ている方に寄ってるぞ」

22年前、フォトグラファーのアシスタントをしていた私は、いつ仕事が飛び込むかわからず先の予定が立てにくかったので、日時の融通が効く個人教習に通っていました。教官は某大物俳優のドライビングマネージャーを経て俳優業と教習業を両立している方で、厳しい世界を知っている人特有のこわさがありました。時折反発し激怒されながらも「ハイ!」と返事だけは元気に、でも運転はさっぱり上達せずで、「試験コースなんていくらやったってしようがないんだ。早く受かれ。実地やらないと意味ないだろ」と仮免に落ちるたびに言われました。

5回目の仮免試験日。終わった途端教官から電話があり、「受かったか?」「ハイ、ようやく受かりました!」「よし、今から実地やるぞ。試験場まで行くから待ってろ」・・・というわけで、ようやく受かった喜びの涙を飲み込んで、帰り道がいきなり路上教習となりました。

「どこ見てんだ?」と教習中何度も尋ねられました。見ているものを正直に伝えると、「そんな近くを見てるからぶれるんだ。もっと先だ、もっと先を見ろ」・・・これも繰り返し言われた言葉です。そして今回のKちゃんとのドライブでも同じことを何度も言われました。
免許を取得したものの運転をほとんどしてきていないのだから22年前と変わらないのは当然ですが、これって運転にかぎってのことではなく自分全体に言えることなんじゃないの?・・・今回久しぶりに運転してはたと気付きました。

近視眼というのでしょうか。とにかく私は物事を広く見てみるということが得意ではありません。目の前のことにばかり気が行ってちまちまと考えがちです。振り返ってみればその性分が災いして壊してしまったと思われる人間関係がいくつもあります。「ああ、やっちまった。また視界が狭くなっていた。ほんとちっちぇーなー」とその都度かなりへこんで反省をし、最近は近視眼になりがちなことを意識するようになっていたのですが、まさか運転にまでその傾向があろうとは・・・。まさに一事が万事とはこのこと。運転への苦手意識の克服はもしかしたらこの近視眼の克服にも通ずるのかもしれません。

そして「もっと先を見て」と助手席から言われ続けた先に三浦の海が広がりました。やっほー!都内から一般道で海を目指すのがこんなに遠いとは・・・これもやってみなけりゃ気付けなかったことです。

(無事に到着できた三浦海岸で対岸の房総半島を眺める)

 

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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