皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

1年を通してよく食べるけど、寒くなってくるとより食べたくなるものと聞かれたら、なにを思い浮かべますか? 僕にとって、それはラーメン。冷えた身体で暖簾をくぐり、モクモクの湯気を顔に浴びながら、熱々の麺をフーフーして食べるラーメンは格別です。

 

ちなみに、ラーメンを食べるならお昼か夜がほとんど、というかほぼ確実にそうなんですが、なにかのきっかけで、福島県の喜多方市では朝食にラーメンを食べる、通称「朝ラー」という習慣があると知りました。

 

喜多方市といえば全国的に喜多方ラーメンが有名な地域です。とはいえ、朝ラーってマジ? 徹夜で酒を飲んで、朝方にラーメンを食べるならまだわかるけど、朝食としてラーメン食べたい? と疑問を抱いた僕は、喜多方のリアルを確かめに、福島に向かいました。数年前の、まだ雪が残る3月でした。

 

「朝からラーメンを食べる」のは自然のこと!?

喜多方観光物産協会のホームページには「朝ラーについて」という解説があり、「ずっと昔から『朝からラーメンを食べる』ことは喜多方の人にとってはごく自然なことであることに違いはありません」と断言。そして、観光物産協会がリンクを張っている市内のラーメン店が組織する団体「蔵のまち喜多方老麺会」には、市内には110軒から120軒のラーメン屋があり、朝ラーを提供しているお店が14軒あると書かれていました(取材時)。

 

どうやら、ラーメン屋が朝早くから営業しているのは間違いないようです。でも、ただ営業開始が早いだけかもしれません。僕は喜多方ラーメンの二大人気店、坂内食堂とまこと食堂がそれぞれ7時と7時半から開店しているということで、その時間に取材を申し込みました。

 

ホテルで自転車を借り、ペダルをこぎ始めたのは6時40分。雪の冷気が放出されているような、東京とは質が違うコールドエアーが目に染みて、ポロポロと涙がこぼれてきました。7時の開店10分前に坂内食堂に到着。ラーメン店が軒を連ねる喜多方の中でも知らぬ人のいない人気店なのに、店の外には僕しかいません。心細さと「企画倒れ」の恐怖が身に沁みます。

 

足踏みしながら待つこと7、8分、間もなく開店、これまでか……と思ったら、ついに僕の後ろに男性が並びました! 心の中でガッツポーズをしつつ話しかけると、青春18きっぷで愛知県から北海道を目指しているというラーメン好きの旅行者でした。

 

彼と話をしているうちに、開店。昭和33年(1958年)にオープンした坂内食堂の2代目、坂内章一さんに声をかけて挨拶をしていると、すっ、すっとお客さんが入ってきました! 作業着やスーツを着ていたりして、間違いなく地元の人々。僕はとりあえず支那そばを注文し、スーツ姿の中年男性に話を聞きました。

「私は隣町に住んでいて、職場が喜多方です。月に1、2回、出勤前にラーメンを食べますね。今朝は、昨晩飲み会があったから、ラーメンを食べたくなってね。サッパリしてるからもたれないし、温まりますよ」

 

僕がこの男性に取材している間にも、どんどんお客さんが入ってきます。結局、僕が注文した支那そばが出てくる前に、9人のお客さんが席についていました。これが朝ラーか! 

 

坂内食堂の支那そばの透き通るような琥珀色のスープは、豚骨塩ベースのスープにしょうゆも加えていて、あっさりしつつも独特のコクがあります。坂内食堂で初めて朝ラーをして気づいたのは、まったく胃にもたれないこと。寒い日の朝に滋味深いスープを飲んだ時とさほど変わらない気分でした。

 

朝ラーの始まり

2代目の坂内章一さんからは、朝ラーの意外な誕生秘話を伺うことができました。

 

「私は2代目ですが、小さい頃から朝ラーの習慣はあったから、もう40、50年は経ちますね。最初の頃は、普通に11時ぐらいから14時、15時ぐらいまで開店していたそうですが、私たちが学校に入って、お弁当を作ってもらうようになってから、朝も営業するようになったそうです。というのも、店と住まいが一緒だったので、朝、厨房でお弁当を作っていると、店の前を通るお客さんが『あれ、もうやってるの?』と声をかけてくる。そういうお客さんの要望もあって、朝早く開店するようになったんです。そうしたら夜行列車で早朝に喜多方に到着した方、工場の夜勤明けの方、明け方からひと仕事してひと段落した農家の方、出勤前のサラリーマン、学生、いろいろな方が来るようになりました」

 

なんと、お客さんの勘違いから始まった朝の営業が、意外にニーズが高かった。そこから、坂内食堂の朝ラーがスタートしたのです。

 

続いて訪問したまこと食堂でも7、8人が朝ラーを楽しんでいました。ここでも中華そばを注文。豚骨と煮干しが素敵にマリアージュした中華そばを完食した後、三代目の佐藤一彌さんに話を聞くと、やはり物心ついた時から早朝営業をしていたそうです。

 

「大きな工場があって、夜勤明けの帰り道に寄ってくれるお客さんがいるんですよね。あとは、ガソリンスタンドとか朝早い時間帯に勤めている方もいます。あと、このへんはソフトボールが盛んで、雪が解けて温かくなると朝の5時、6時から練習とか試合をして、ユニフォームのままうちでそばを食べてから仕事に行くという方もいます。いろいろなパターンがありますね」

 

坂内さんと佐藤さん、おふたりの話もそうだけど、なにより朝7時台の店内の賑わいを見て、喜多方の朝ラー文化を実感しました。

 

このコラムを書くにあたり、もう一度、喜多方観光物産協会と蔵のまち喜多方老麺会のホームページを確認したところ、市内のラーメン店の数は100軒に減っていました。ところが、朝ラーを提供しているお店は15軒に増えていたのです。これはきっと、朝ラーを求める人が増えているということでしょう。

 

東京で朝ラーをしたいか、春夏秋に朝ラーをしたいかと問われると、あまり魅力的には感じないのですが、もう一度、冬の喜多方に行く機会があったら、僕はきっと早起きします。そして凍えるような寒さのなか、自転車をこぎ、どこかのお店に駆け込んで、フーフー言いながらラーメンを食べたいなあ。

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。