稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

かつてない気持ちよさ!海と鮮魚と解放感を楽しむ三浦海岸トゥクトゥクドライブ!

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

今回は、とっても気持ちのいい「乗り物」で巡る旅をご紹介します。その乗り物とは、トゥクトゥク! 主に東南アジアで、よくタクシーとして利用されているバイクのような三輪自動車です。乗ったことはなくても、見たこと、聞いたことはあるという方も多いと思います。

 

五感がフル稼働するドライブ

このトゥクトゥク、諸々の手続きをすれば日本の公道でも走ることができるんですが、なんとレンタカーサービスもあるんです。いくつかのレンタカー会社があるなかで、僕が取材に訪れたのは、三浦海岸駅前に営業所を構える「三浦観光バス」。導入の背景を取材する前に、まずはトゥクトゥクドライブにゴー!……という訳にはいかず、出発する前に練習が必要です。

 

トゥクトゥクは自動車の普通免許で借りられます。でも、運転には多少の慣れが必要なんです。トゥクトゥクはバイクのようなハンドルで、右手のアクセルを吹かすと前進します。バイクの場合、その右手にブレーキもついているけど、トゥクトゥクのブレーキは、車と同じように足元にあり、右足で踏みます。だから、右手と右足を臨機応変に使い分けなきゃいけない。バイク、車のどちらかしか運転したことがない人だと、混乱してしまう可能性があるので、20分から30分、スタッフさんと一緒に営業所の目の前にある駐車場で練習をするのです。

 

とはいえ、ひと通り教わればすぐに慣れます。スタッフさんからも「大丈夫そうですね」と太鼓判をもらい、いざ出発! ということで、僕はスタッフさんから「景色がいい」と聞いた岩堂山、取材のコンタクトを取っていた三浦観光バスの常務、根岸辰也さんが「ガイドブックには載っていないけど好きな景色」として教えてくれた宮川公園へ向かいました。

トゥクトゥクで公道を走り始めてすぐに気づいたのは、これまでに感じたことがない気持ちの良さ。屋根はあるけど、窓はない。バイクと違ってヘルメットも必要ない。だから、海の風、町の匂い、いろいろな音がダイレクトにカラダに入ってくるんです。車とも、バイクとも違う、五感がフル稼働するドライブは本当に新鮮でした。

実はこの取材、ひとりでトゥクトゥクに乗るより何人かで乗ったほうが楽しいだろうと、3人の友人を連れて行ったのですが、そのうちのひとりがトンネルを抜ける時に言った言葉が、トゥクトゥクドライブの楽しさを表しています。

「タイムスリップしてるみたい!」

 

取材に行った時、その土地のグルメを満喫しないという選択肢は僕にありません。岩堂山と宮川公園でなんとも気持ちのいい景色を眺めた後、僕らは三浦半島の南西、海の幸、そして、マグロが有名な三崎漁港へ向かいました。そうしてたどり着いたのは、三崎漁港からほど近い三崎下町商店街。昔ながらの面影を残すこの商店街でネットやパンフレットに頼らず、「直感で良さそうな店に入ろう」と決めていた僕らが見つけたのが、平日の昼間に行列ができている店「マルイチ」です。

ここで僕らは、マルイチが2軒隣で経営する鮮魚店で購入した、地元で「ダツ」と言われる深い紺色をした細長い魚と立派なアオリイカを調理してもらい、さらにマグロの三点盛りとタコのぶつ切りを注文。口に含んだ瞬間に幸福感が湧き上がってくるランチを済ませた僕らは、再びトゥクトゥクに乗り、三浦半島の最南端、城ヶ島に向かいました。

 

城ヶ島の灯台のあたりには、「長津呂(ながとろ)の磯」という珍しい形状の岩場が広がっています。岩場から見る海は透明度が高く、魚やヤドカリの姿も見えました。絶好の釣りポイントで、普段は釣り人が多いそうです。この日は時間が足りず、三浦海岸駅に戻りましたが、いつかここで釣りをしたいと思いました。

 

偶然の出会いから始まったトゥクトゥクレンタル

三浦観光バスのオフィスで僕らを待っていてくれたのは、トゥクトゥクの導入を決めた同社常務の根岸辰也さん。祖父の代から「三浦観光バス」を家業に持つ根岸さんは、前職の旅行会社を辞めて三浦市に戻ってきた2014年、「(地元の)元気がないな」と感じたそう。

 

それもそのはず、今や三浦半島は神奈川県でも屈指のスピードで人口減少と高齢化が進んでおり、根岸さんが子どもの頃、約120軒あった海の家は、もう5軒しか残っていません。町内会や飲食店組合などの旅行も減り、町からどんどん活気が失われていくなかで、「なにか面白いことをできないかな」と考えていたと言います。

 

根岸さんはそこで地元の子ども向けに移動図書館や、地元の食材を使った料理を提供するキッチンカーをスタート。なんとか地元を盛り上げようと奮闘していた時に、偶然にも横須賀市にある車の整備工場でトゥクトゥクを見て、「あ、トゥクトゥクって日本で走れるんだ」という気付きを得て、導入に踏み切りました。

 

「三浦海岸駅から海まで5分で行けるんです。海沿いの道をトゥクトゥクで走ったら気持ちいいんじゃないかなと思ったんですよね」

トゥクトゥクのレンタカーを始めたのは、2019年8月。作年のゴールデンウイークと夏が勝負だと思っていたら、コロナに見舞われて、期待通りの稼働率、とはいきませんでした。

 

でも、リピーターが多いというのは納得です。根岸さんの見立て通り、海沿いの道をトゥクトゥクで走る気持ちよさは、格別! 一緒にドライブしたひとりは住まいが三浦海岸から近いのですが、「今日走った道は車で来たこともあるけど、車の何十倍も楽しかった」と振り返っていました。

 

根岸さんと三浦観光バスにとっては、今年のゴールデンウイークからが挽回のチャンス。レンタカーできるトゥクトゥクは4人乗りと7人乗りの2台あるので、僕も友人たちに声をかけて再訪し、2台で三浦海岸沿いを走り回って、海と鮮魚とドライブを楽しみたいと思っています。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※この取材は、2020年秋に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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