稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

気仙沼でサメ三昧!現地でしか食べられない珍味「モウカの星」を求めて。

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

僕は情報収集として日々、新聞や雑誌、ウェブをチェックしています。ひとつひとつの記事を念入りに読むというより、パッと見て気になるキーワードがあると、深掘りして調べるというスタイルです。

 

ある時、ネットを見ていて、「ん!?」と引っかかったのは、「モウカの星」という言葉でした。思い浮かべたのはもちろん、「巨人の星」ですが、珍味と書いてあります。変わった名前だなと「モウカの星」で検索して、驚きました。モウカザメというサメの心臓のことを指すのです。僕が見たいくつかのサイトには「気仙沼・幻の珍味」「産地でしか食べられない珍味!」「気仙沼の究極珍味」と書かれていました。

 

幻で、究極で、現地でしか食べられない珍味。それはどんなものなのか? 三度の飯より好きなものがない僕は、一路、気仙沼に向かいました。数年前の冬のことです。

 

海のギャング・ホオジロザメの親戚

ホテルにチェックインした後、ホテル直営の「お魚いちば」に行ったら、サメの水揚げ日本一を誇る気仙沼だけあって、とにかくフカヒレ推し! フカヒレ茶、姿煮、乾物、かまぼこ、活揚げ、パイ菓子などなど、これでもか! というほどフカヒレ関連商品がありました。なんと、併設の食堂には、サメの肉を使ったハンバーガーまで。フカヒレ=高級食材という印象しかなかったけど、こんなになににでも活用できるとは!

 

そして、ありました! モウカの星、の解説が。でも、肝心のモウカの星はなし。店員さんに聞いてみると「3連休の最終日で、船が出てないからね。明日、水揚げされれば届くと思うけど……」とのこと。基本的にはナマで食べるモウカの星は鮮度が大切なので、船が出ていない日はなかなか手に入らないのです。僕は翌朝、気仙沼魚市場に取材を申し込んでいたので、モウカザメが水揚げされていることを願いました。

 

翌日は朝5時起きで、市場へ。東日本大震災では12メートルの高さの津波に襲われ、漁港や市場も大きな被害を受けたそう。それからしっかりと再建されて、たくさんの魚と漁師さん、市場の関係者で賑わっていました。

 

市場では、事前に連絡していた気仙沼漁業協同組合の魚市場部長に案内をしてもらいました。部長が「これです」と指さしたのが、カジキのすぐ近くにずらりと置いてあったモウカザメ。「サメ」と言われてイメージするビジュアルがあると思うけど、まさにイメージ通り、悪そうな見た目(笑)。

それもそのはず、気仙沼ではモウカザメと言われているけど、正式な名称はネズミザメ。成長すると3メートルにもなる海の捕食者で、海を舞台にしたパニック映画でよく見る獰猛な海のギャング・ホオジロザメの親戚なんです。気になるのは、なぜ、海のギャングの心臓を食べるようになったのか。

 

「気仙沼で一般的に食べられるようになったのは、20年前ぐらいかな。でも、漁師はずっと昔から食べていたんですよ。魚の心臓はすべて『星』と呼ばれていて、マグロの星といえばマグロの心臓。でも、ここでは心臓の需要があるのはモウカザメだけで、他の魚の心臓は食べない。売れるのはモウカだけですね」(部長)

 

「ずっと昔から」ということだから、「なんで?」という質問の答えはわからないけど、気仙沼ではほかの魚の心臓は食べないという話を聞いて、すっごくシンプルに考えると漁師さんにとって「モウカの心臓が一番美味しかったから」なのかもしれない。

驚いたのは、その値段。冬は、人間のこぶし大の心臓ひとつに1000円前後の値段がつくといいます。サメ一匹につきひとつしかないから、稀少な高級食材なのです。もっとも、旬の時期にはもっと安くなるそうです。

 

「本当の旬は5月、6月。今日は200匹ぐらいだけど、盛漁期には1日に2000、3000匹の世界で、横幅1キロある市場がモウカで埋め尽くされるぐらいに並びますよ。だから、価格も半値、3分の1ぐらいになります」

 

モウカザメは不思議な魚で、血が抜けるとあっという間に鮮度が落ちてしまうそう。これは市場で扱われる無数の魚の中でもモウカザメにしか見られない現象で、理由は不明。モウカザメの鮮度を保つために、漁師さんは船上で血抜きをせずに市場まで持ってきて、市場で解体処理をします。そこまで手間暇をかけているフレッシュなモウカの星だから、おススメの食べ方は刺身。気仙沼では酢味噌で食べるのが一般的と聞きました。

 

それにしても、印象的だったのは寒さを吹き飛ばす市場の活気! 気仙沼の魚市場の2階には全長354メートルもある見学デッキがあるので、早起きして見学がおすすめです。

 

寿司屋でサメを食べまくる。

取材後、宿に戻って少し休んだ後、前日空振りだった「お魚いちば」に。売り場に直行すると、ありました、モウカの星! 自宅用とお土産用に2つ購入しました。

 

その後、市場からほど近く、シャークミュージアムに併設されている「いちば寿司」へ。ここでも、モウカの星を発見! 着席するなり注文して、現地でしか食べられない幻で究極の珍味ついに実食! 数時間前に市場で見た心臓だと思うと親近感がわいてきます。酢味噌につけて、いただきます! 

見た目は真っ赤だけど、生臭さは全くなし。コリコリと歯ごたえがあって、食感はレバ刺し、あるいはハツの刺身のようだけど、味はもっとあっさりしていて、口に含むとフワッと風味が広がります。僕はレバ刺しやハツ刺しが特に好物ではないけど、これは美味い!

 

モウカの星に出会えてテンションが上がった僕は、調子に乗ってフカヒレ寿司、フカの生ハム寿司も注文。どちらも初体験だったけど、これがまた上品な味なんです!

 

サメの心臓、ヒレ、肉を食べて、サメ三昧の僕は、お腹いっぱいの大満足で帰路に就きました。これまでは、なんとなく悪役的なイメージしかなかったサメだけど、これからはサメを見たら気仙沼を思い出して「……美味そう」と思ってしまいそうです。

また、気仙沼でサメ三昧したいなあ。

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※この取材は、2016年に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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