稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

楽々爽快サイクリング!伊豆の「シアワセお遍路」を体験

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

東京では、少しずつ温かくて気持ちいい日が増えてきましたが、皆さんがお住いの地域ではいかがでしょうか? 春が近づくと、外に出て、体を動かしたくなりますよね。僕の場合、冬眠から目覚めたように、旅に出たくなります。

 

さて、今回のテーマは「お遍路」。そもそも、お遍路とは何なのか? 調べてみると、「弘法大師(空海)の 足跡をたどり、八十八ヶ所の霊場を巡拝すること」(四国地区観光公式サイト)。目的は縁結びから健康祈願、自分探しまでなんでもありで、何カ月もかけて約1300キロの道のりを歩いて踏破する人もいれば、何度も通って少しずつ巡る人もいるそうです。

 

もともとは僧侶たちの修行の一環でしたが、江戸時代から庶民にも浸透。一度、戦後の混乱期に庶民の足が遠のき、その歴史が途絶えかけたものの、1953年、愛媛の松山市に拠点を置く伊予鉄道が企画したバスツアーで観光としてのお遍路が脚光を浴びるようになり、息を吹き返したと言われています。現在、お遍路目的で四国を訪れる人は年間約10万人という数字を見ると、伊予鉄道さんのお手柄! ですね。

 

お遍路は白装束で、笠をかぶり、杖をつきながら歩く人たちのイメージが強いけど、15万人のうち、大半は車やバスを使う観光客。寺院を巡るのはバスでも、車でも、自転車でもいいし、服装も自由なんです。このハードルの低さも、10万人を集める理由のひとつかもしれません。

 

シアワセお遍路

意外な点が、もうひとつ。お遍路と言えば四国という印象がありませんか? 実は、静岡県の伊豆と愛知県の知多半島にも江戸時代から歴史を持つお遍路があるんです。そこで僕は3年前の春、四国のお遍路のおよそ3分の1、444キロの道のりで、「4」が合わさって「シアワセお遍路」とも呼ばれている伊豆のお遍路の取材に向かいました。

 

ちなみに、お遍路は【一番札所から番号順に巡る「順打ち」が一般的】とされていますが、今回は「体験」ということで、伊豆のお遍路の一番札所がある嶺松院(伊豆市)ではなく、下田駅からスタート。なぜ下田駅かといえば、駅前で自転車を借りられるができるから。そうそう、伊豆は山がちで坂道が多いので、軟弱者の僕はもちろん電動自転車をチョイスしました(笑)。

 

今回の取材に付き合ってくれたのは、「伊豆八十八カ所霊場遍路」の復興と繁栄を目指す「伊豆霊場振興会」の4代目会長、遠藤貴光さん。遠藤さんは四国のお遍路を歩き切り、その後に伊豆のお遍路も踏破。その際に、「伊豆には質の高い旅館が多く、温泉もたくさんある。海と山が同時に楽しめて、風光明媚。これはいける! 」とポテンシャルを感じたそうです。

▲遠藤貴光さん▲

 

それから伊豆のお遍路の復興に立ち上がり、様々な取り組みを始めました。レンタルサイクルも、そのひとつ。伊豆は抜け道が少なく渋滞が起きやすいので車はおススメできないし、起伏が激しいから歩いて巡るのも楽ではない。自転車、特に電動自転車なら、老若男女が伊豆の風を感じながら、お遍路を巡ることができる!

 

疲労感ゼロの爽快サイクリング

ということで、いざ、電動自転車でお遍路がスタート! その日は、暑くもなく、寒くもなく、湿気もない、鼻歌を歌いたくなる陽気で、まさにサイクリング日和。僕らはまず、下田駅から3キロほどの位置にある第44札番で、「隠れた花の名所」(伊豆下田観光協会公式)と紹介されている広台寺へ。とても静かで、庭の植物が美しいこのお寺は、【1854(安政元)年に近隣が大津波に襲われた際、下田に滞在していたロシアのプチャーチン提督と幕府の勘定奉行川路聖謨が避難】したそう。こういう知られざる歴史を振り返りながらお寺を巡ると、「お遍路感」が増すので、おススメです。

広台寺▲

 

次に、僕らは広台寺から北に1.5キロ、5分ほど走って、第45札番の向陽院、それから稲梓川沿いの道を4キロほど南に下り、了仙寺へ。ここはお遍路の寺院ではないのだけど、黒船が来航した時にペリーと日本側全権の林復斎(大学頭)の間で日米下田条約が締結された場所で、下田の歴史的名所なのです。

▲向陽院▲

▲了仙寺▲

 

この後、了仙寺から伊豆急下田駅に向かう1.3キロの道中にある第43札番の大安寺、第41札番の海善寺に立ち寄りました。どちらも観光客が立ち寄るような華やかな雰囲気ではないのだけど、歴史を知ると興味がわいてきます。 

▲大安寺▲

 

大安寺は、【日向佐土原藩の船が、将軍家に献上するための御用材を積んで江戸に向かう途中で暴風雨に遭い、やむを得ず積荷の一部を捨てて下田港に入港しましたが、御用材を捨てた責任をとり16人が自害しました。 帰葬が許されなかったため、故郷の菩提寺と同名の大安寺に葬られることとなりました。 船に残されていた材木は、大安寺の本堂の柱として残っています】とあり、大安寺にはこの16人の墓が現存しています。山門がとても立派な海善寺は、【(江戸幕府の)14代将軍徳川家茂公が京都に向う途中、嵐に遭いこの寺で年越しした】そう。

▲海善寺▲

 

4つの札所と了仙寺を巡り、「伊豆のお遍路体験」は終了。下田駅に戻った時点でレンタルサイクルの利用時間は1時間37分、走行距離は9.8キロでした。運動不足の身にとって、歩いたり、走ったりすると思うと約10キロはハードルが高すぎるけど、電動自転車ならあっという間! 自然豊かな伊豆の川と山を眺めながらのサイクリングはとても気分が良く、疲労感もストレスもゼロ! この調子だと、数日かければ444キロの「シアワセお遍路」も、スイスイ~と完走できそう。

 

まだ、伊豆半島全体をカバーするほどレンタサイクルは整備されていないけど、四国のお遍路と同じように、伊豆に通って、海と山と温泉、そしてグルメを満喫しながら、残り84か所の札所を巡るのもいいなあと思いました。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※この取材は、2018年に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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