稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

老若男女から愛される。東京・下落合発のクラフトコーラ「伊良コーラ」

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

これまでの6回では、地方で「おいしいものづくり」をされている方や、食にまつわる魅力的なスポットをお伝えしてきましたが、今回は東京! 

東京に観光に来る方はもちろん、東京在住の方でも訪ねてみたくなること間違いなし! の稀人を紹介します。

その人の名は、世界初のクラフトコーラメーカー「伊良(いよし)コーラ」を立ち上げた小林隆英さん。

読者のなかには、え、コーラ? と戸惑う方もいるかもしれませんが、ご安心ください。

小林さんが生み出したのは、誰もが知っているコカ・コーラやペプシコーラとは似て非なるもの。老若男女問わずファンが多い、これまでにないコーラなんです。

 

伊良コーラのショップがあるのは、東京都新宿区下落合。

JR山手線の高田馬場駅から西武新宿線の各駅停車に乗ると、1駅です。賑やかな学生街の高田馬場とは打って変わって、穏やかな空気が流れ、生活の匂いがする町というのが、僕の印象です。

 

駅前にあるせせらぎの里公苑の脇道を進むと、神田川が見えてきます。

橋を渡り、桜の木が立ち並ぶ川沿いをぶらぶら歩いていくと、間もなく目に入る小さなお店。それが、今年2月28日にオープンした伊良コーラの総本店です。

ちなみに、お店の営業時間は金、土、日の13時から17時。月曜から木曜日は開いていないので、気をつけてくださいね。

僕が訪ねたのは金曜の13時だったのですが、驚いたのは開店前から人が並んでいたこと。

コーラといえば、自動販売機やコンビニでいつでもどこでも買えるものというイメージがあったので、「コーラを買うために並ぶ人がいる」こと自体が新鮮でした。

 

13時に開店してからも、切れ目なくお客さんがやってきました。

しかも若いカップル、スーツ姿のビジネスパーソン、明らかに近所に住んでいるおばあさんまで客層が多彩。

それだけの人が、わざわざお店に足を運んでまで飲みたくなるコーラって、どうやって作られているのでしょうか? 

 

ネットで見つけたレシピでコーラを自作

下落合出身の小林さんは北海道大学に通っていた学生時代からコーラが好きで、趣味の釣りをしながら世界を旅している時にも、各地でコーラを飲んでいたそうです。

しかし、その時には自分でコーラを作るようになるとは夢にも思っていませんでした。

 

北海道大学の大学院を卒業し、上京して大手広告代理店に就職。

その1年目、たまたま自宅でネットサーフィンをしている時に、怪しげな英語のサイトの記事が目に留まりました。そこには1886年5月8日、アメリカ・ジョージア州アトランタの薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士が開発したコカ・コーラのシロップのレシピが掲載されていたのです。

 

コカ・コーラのレシピは現在も門外不出の秘伝とされ、本社の特別な施設で保管されており、レシピの内容を知っている人は世界で数人しかいないと言われています。

それが流出したのか真偽は定かではありませんが、意外なことにそれほど複雑ではなく、コーラ好きの小林さんは「え、これなら自分でも作れるんじゃん!」と自作してみたのです。

それは「なんとなくコーラの味がする」程度の出来栄えでしたが、むしろ好奇心を刺激されて、コーラ作りが小林さんの趣味になりました。

 

しかし、2年経っても「おいしい」と思えるコーラができず、「もうやめようかな」と諦めかけた時、実家に戻る機会がありました。2017年、「伊良葯工」の看板を掲げて長らく漢方職人をしていた祖父の良太郎さんが亡くなり、工房を整理することになったのです。

 

その時に、自然と、祖父・良太郎さんの思い出話に花が咲き、家族が「火を入れてる時にこんな大変なことがあったよね」「こんな風に手間をかけていたよね」と話していたのを聞いた小林さんは、ふと思いました。

 

「祖父のやり方をコーラ作りに活かせるかもしれない!」

 

「コカ、ペプシ、イヨシと言われるブランドになる」

この閃きは、小林さんのコーラを劇的においしくしました。

試飲してもらった同僚の「めちゃくちゃおいしい!これ、普通にお金払っても飲みたい!」という言葉にも背中を押され、会社員を続けながら、休日にイベントなどで伊良コーラの販売を始めます。

 

すると、1杯500円のコーラはイベントでも大人気で、多い時には1日で250杯売れることもあったそう。

大きな手ごたえを得た小林さんは、イベントに初めて出店からわずか5カ月後の2018年12月、会社に辞表を提出し、翌月、起業しました。「2025年までに、コカ、ペプシ、イヨシと言われる三大ブランドのひとつになる」という目標を掲げて。

 

それからは、コーラの販売と並行して地道にコーラのレシピを改良。

もともとのレシピになかったクローブやカルダモン、ラベンダーなど15 種類以上のスパイスと柑橘類を配合することで、伊良コーラの味を深めていきました。

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小林さんのコーラへの情熱は尽きることなく、柚子、クロモジ、ぶどう山椒、ニホンミツバチの蜂蜜など、日本各地から集めたボタニカルを使用して作られた「THE JAPAN EDITION」や、自宅用のシロップを買ったお客さんから「ホットミルクに入れて飲んでいる」という話を聞いて開発した「ミルクコーラ」も店頭に並んでいます。

伊良コーラは、一口飲めば、違いがわかります。スパイシーで爽やかな風味。口の中にシュワッと拡がる清涼感。

「癖になる味」という表現がぴったりで、普段、コーラを口にしない僕の妻も、伊良コーラだけは特別枠。お店に通うファンが多いのも頷けます。

 

伊良コーラのシロップはオンラインでも販売していますが、「THE JAPAN EDITION」や「ミルクコーラ」は、下落合でしか体験できません。

ぜひお店に足を運んで、世界初のクラフトコーラを味わってみてください。きっと、コーラのイメージが覆されて、ビックリ仰天するはず!

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※こちらの取材は、2020年6月に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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