フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

会津行き

あけましておめでとうございます。

フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

今頃の挨拶だなんて呑気な話ですが、2023年は過去稀にみる慌ただしさで幕が開けまして、取材で会津(福島)、横手(秋田)、十日町(新潟)へと出掛けておりました。3ヶ所に共通するのは国内有数の豪雪地帯であること、また米どころであること(ゆえに酒どころ)でしょうか。

見聞きしたことを3回に分けてお届けします。

 

会津。そこは、歴史好きのわたしにとって聖地と呼んでも過言ではない場所で、仕事に乗じて会津へ行けるなんて幸せ!撮影内容もギャランティも一切おかまいなし!・・・なんて心境になるくらい焦がれる場所です。訪れること4度目の今回は、かの地の伝統工芸とそれにちなんだ活動についての取材でした。

 

会津入りした日はたまたま十日市(とおかいち)という初市が開かれる日で、年末の雪が残る路地から大通りに出ると、通り沿いの歩道にはオレンジの光に包まれた出店が連なっていました。私が着いたのはすでに夜で、「21時完全撤収です」というアナウンスが流れ、店じまいを始めているところも多く、賑わいの余韻はかすかでした。日が落ちた街に灯る市の光は淡くあたたかで、離れたところから見守っていたくなるような風情がありました。400年以上続いている市なんだそうで、起き上がり小法師や風車などの縁起物を売る店が食べ物を扱う店に混じって見られます。東京における酉の市のような位置付けでしょうか。

 

この夜は会津の友人に案内された居酒屋で、郷土料理である馬刺しとにしんの山椒漬けをあてに、会津の日本酒を私にしてはたらふく呑みました。

翌日は去年の11月にオープンしたてのヒューマンハブ天寧寺倉庫での取材でした。

そこは一見すると、会津のいいものを集めたお店です。

会津が誇る伝統工芸・会津塗の器が、暮らしに取り入れやすい価格帯で並んでいます。私のこれまでの会津塗のイメージがハレのお膳で使用する漆器、つまり値が張るものという印象だったので、ふだん使いしやすい見た目と金額で自分の食卓で使えそうだと親近感がわきました。漆塗りを用いたアウトドアグッズまであって、漆器へのアプローチをしやすくしてくれています。

 

また、これも伝統的な会津の布・会津木綿を使った製品の売り場で見つけた猿袴(さっぱがま)もかなり魅力的でした。会津の伝統的な野良着なんだそうで、会津木綿の軽くて通気性がいいという特徴に加え、立ち居がしやすいよう太腿まわりやお尻部分に余裕をもたせ、膝から下は長靴が履きやすいすっきりしたラインに。農作業が生んだ形とのことですが、ふだん履きに十分かっこいい(スタッフさんも着用してました)。

 

重厚に響く伝統というものが「今」とクロスしている。伝統と呼ばれるものはこれまでもそうやって残ってきたんだと思うんです。その時代時代の要請に応じて変化を受け入れ、でも残すべきところはしっかり残し伝えるということを繰り返したから続いてきたんだと。ここはそれが現在進行形で起きている場所のようです。

 

ほかにはパン屋ありカフェあり(福島産の食材を盛り込んだソフトクリームも)で、ここまでは想像できる範囲でした。けれど加えて木工や漆塗りの作業場があり、2階には備品の充実した(大型プリンターや3Dプリンター、大型スクリーン等々)ワーキングスペースがあって、何か試みたいことや目指すものがある人にとって、それを具体化するための可能性をたっぷり孕んだ魅力的な場所でした。

 

木工の工房では、原発事故で南相馬から喜多方に避難してきたベテランの家具職人が仕事していて、いずれ独立したいと考えている若者が技術を学ぶことが可能で、ベテランと若者がクロスする場にもなっています。

 

面白い場所でした。産声をあげたばかりのここが5年後、10年後、さまざまな人や事柄がクロスした先にどんな化学反応が起きるのか、のぞいてみたい。

「会津」というとつい白虎隊とか新撰組とか戊辰戦争とかに意識が行きがちな私ですが、取材を通して全く別の角度から・・・暮らしという視点で会津に触れる機会になったように思います。数日の滞在でわかることなどたかが知れているのですが、会津の人は会津のことが大好きでたまらんのだなと、語彙が足りなさすぎですがそれ以外の言葉が見当たらないほど、会津を想い考える気持ちを受け取った気がします。

 

取材先の近くにあると教えてもらった会津藩主・松平容保と土方歳三が建てた近藤勇の墓には行けませんでしたが、会津を訪れることのなかった近藤勇の墓をなんで会津にこしらえたのかと考えて、もしかしたら土方歳三も会津が大好きで、ここで一緒に戦いたかったと思ったのかもねなどと答えのない想像をめぐらせ・・・次の行き先、横手へと続きます。

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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