旅行 稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

あらゆる世代が楽しめる遊園地るなぱあく。名物園長のアイデアで人気スポットに!

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

突然ですが、読者の皆さんは最近、遊園地に行きましたか? 僕は娘と一緒に出掛けるとき以外は足を運ぶ機会がなかったのですが、先日取材に行った遊園地には、ワクワクしました。

前橋るなぱあく(群馬県前橋市)

子どもだけでなく、若者から高齢者まであらゆる世代が楽しめるように、次々とユニークな取り組みをしているのは、群馬県前橋市にある「前橋るなぱあく」。1954年に開園した創立67年の老舗で、「日本一安い遊園地」としても有名で、メディアにもたびたび取り上げられているので、名前を耳にしたことがあるかもしれません。

るなぱあくは、前橋城の空堀の跡地に作られていて、敷地はサッカーコート2面分ほど。端から端まで歩いて数分程度の小さな遊園地で、大型の遊具は8台しかありません。それなのに、この遊園地の年間利用者数は、なんと最大171万人を超えるのです。

人気の理由のひとつは、その安さ。開園当初からあり、今や国の登録有形文化財にも登録される電動木馬をはじめとした小型の遊具は1回10円、8つある大型遊具も1回50円。回数券は500円で11枚ついてくるから、回数券を買えばさらに安くなります。そうそう、入園料はなんと無料! すべての大型遊具を楽しんで、そのうちのいくつかをリピートしても、500円(回数券の料金)。小型の遊具に乗りまくって、小腹が減ったら園内の売店でランチをしたとしても、ひとり1000円前後で楽しめるのです。

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ちなみに、この価格は開園時から変わっていないのですが、るなぱあくの利用者数は長らく年間120万人程度でした。そこから50万人以上も増えた背景には、ひとりのキーマンがいます。レトロな遊園地に安さだけではない魅力をもたらしたのは、原澤宏治園長です。

大人も楽しめる企画を考案

るなぱあくの歴史を振り返ると、もともとは前橋市の直営で、2004年から民間に委託されました。それからしばらく利用者は約120万人程度だったのですが、2015年に「オリエンタル群馬」という会社がるなぱあくの「指定管理者」に選ばれ、原澤さんが園長に就くと、利用者数が右肩上がりで増え始めたのです。

原澤宏治園長

なぜでしょう? 元銀行マンで、独立後は経営コンサルタントをしていた原澤さんが注目したのは、遊園地なのに入園料が無料という位置づけ。実は、るなぱあくというのは愛称で、正式名称は前橋市中央児童遊園。公園ならだれが来てもいいだろうという発想から、大人も楽しめる施設にしようと方針を定めたのです。

まず、原澤さんが就任した年の夏に始めたのが、大人をターゲットにした「るなぱ DE ナイト」。普段は17時(冬季は16時)に閉園するところ、夏休み期間中の金曜日に限り、18時から21時まで開園し、アルコールも提供するようにしました。すると、スーツ姿の会社員のグループやデート中のカップルなどが訪れ、遊具に乗って楽しむようになりました。

子どもを主役にした夜間開園「るなぱ DE HALLOWEENないと」で2018年から開催しているのは、群馬県内で活動しているダンスチームを集めたダンスバトル「夜のダンス選手権」。自分の子どもが踊っている姿をカメラに収めようと家族総出で来園するきっかけとなり、18時から20時の開園時間に2000人弱が訪れ、夜間開園史上最高の来園者を記録しました。

こうして「夜の遊園地」を楽しんだ大人たちは、子どもを連れて休日の昼間にも遊びに来るようになります。それが、原澤さんの狙いでした。

日清のどん兵衛とコラボ

原澤さんは、地域活性の視点から、子育て支援プロジェクト「るなぽけ」も始めました。地域の子育て支援団体と連携し、親子で楽しめるイベントを開催しながらママ友を作ってもらおうという企画です。

2017年10月の初回から大勢の参加者が集まり、昨年、コロナで中止になるまで、毎回60人から70人のママが集まるようになりました。全員子どもを連れてくるので、かなりの大所帯。参加者には会員証を発行し、来園のたびに会員証を掲示すると遊具の利用券を1枚プレゼントしているので、イベントがない時にも子どもを連れて訪れるママさんも多いそうです。

園長やスタッフの企画力に注目する企業も出てきました。昨年2月には、日清のどん兵衛とコラボして、「日本一安い遊園地で日本一高いどん兵衛を」というイベントを開催。「日本一高いどん兵衛」は「利根川風越境肉どん兵衛」というネーミングで、群馬県産の食材をふんだんにトッピングしたもので、一杯1000円、限定50食。「日本一安いどん兵衛」は、1杯10円のミニサイズのどん兵衛が提供され、大盛況となりました。

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ここに挙げたのはごく一部で、るなぱあくではほかにも数多くのイベントを開催しています。そのすべてが、1回限りの集客目的ではなく、次回の来場につながるような工夫がなされています。それが見事に功を奏して、利用者が急増。年間の利用者数は1986年の141万人が最高記録でしたが、2017年には146万人に。その翌年には171万人を超えて、2年連続で最高記録を更新しました。2020年も、コロナ禍に見舞われながら、143万人が来場しています。

取材をして印象的だったのは、原澤さんがとても楽しそうに話をしてくれたこと。園長自身が面白がりながら仕事をしているのが、存分に伝わりました。それが、たくさんのお客さんを惹きつける大きな理由のひとつでしょう。

原澤さんから話を聞いた後、僕はひとりですべての遊具に乗ったのですが、子どもの頃を思い出して、ハッピーな気分になりました。今度は娘を連れて、再訪したいと思います。

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稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

※この取材は2020年12月に行ったものです。

Information

前橋市中央児童遊園 るなぱあく LUNA PARK

https://www.lunapark-maebashi.com/

群馬県前橋市大手町 3-16-3 電話 027 231 6774

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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