フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

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こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

ただいまウェブサイトのリニューアルを進めています。ここ何年も更新を怠り、かといってウェブサイトをクローズしてSNSでの発信のみに切り替える潔さはなく、サーバーの使用料をただただ払い続ける年月を送ってきました。

 

ここは一念発起だと、去年のゴールデンウィークに「ウェブサイトリニューアル合宿」と銘打って、連日仕事場に泊まり込んで作業をしていたのですが、気力を維持できず途中で心が折れ、そのまま放置してあっという間に一年が経ちました。

 

「リニューアルする、するって言っていつになったらするの!?」と友人は呆れ顔。えーい、こうなったら何が何でもリニューアルだ!この友人に締め切り監視人になってもらうことにしました。

まず、ウェブサイトのページごとに締め切りを設定し、それを破ったらペナルティを課すことにしました。

自分にとって何が一番堪えるか・・・それは不本意な出費です。私の仕事は案件ごとにギャランティが違うので、使った金額を仕事のギャランティと具体的に結びつけて考えがち(同業他者はどうなのか知りませんが)。後悔するようなお金の使い方をすると「私のあのときの労働の血と汗と涙の結晶が…」と生々しく悔やまれるのです。

たとえば衝動買いした洋服がどうにも似合わないと気づいたときなど、「嗚呼、あのインタビュー撮影のはたらきを無駄にしてしまった・・・」というような後悔をする。

そういう自分を踏まえたうえで、締め切りを破ったら彼女に罰金を払うことに決めました。彼女は「その罰金はむーちょが嫌いな政党に寄附するから」と。二重に不本意です。今度こそウェブサイトのリニューアルを成し遂げる!だからこんなペナルティを設定しました。

もう何年もほったらかしですから、リニューアルにあたりコンセプトの見直しをしました。ざっと15年分の過去の仕事をさかのぼり、未来のわたしがどんな写真を撮っていたいか、どんな仕事をしていたいかを考えたうえで、載せる写真載せない写真を分けます。その際に自分の強みはどのあたりかも考えます。

この作業がとにかく大変なわけですが、過去に自分が撮影した写真たちを見続けていると気付くことがたくさんあります。いいことも悪いことも。

 

いいところは、価値観が一貫している点。自分は何に心が動くのか。何を美しいと感じるのか。ずっと考え続けていることです。

悪いところは、写真の使い途を考えるあまり小綺麗にまとめてしまう点。もっと自由になればいいのに、と思う。

 

また、見ているうちにあれやこれやを思い出します。

思い入れのある写真って、そこに紐づく事柄が多かったり印象深かったりすることも多く、撮影のときの情景や会話を事細かに覚えていたりします。

ふだんは忘れているのにその写真を前にすると思い出せる。

その中から、発想の転換になった出来事を紹介します。

17年くらい前の仕事です。福島県のPRポスターの撮影をしました。浜通り、中通り、会津の3エリアを2泊3日で巡りポスター用に風景を撮るという内容でしたが、連日小雨に見舞われ天気が良くなる気配が全く見られず、内心とても焦っていました。このままだと「雨女カメラマン」のイメージがついてしまう、と。

中通りでは、田園風景の向こうに聳える磐梯山を撮りたいのに、雲がどうにも抜けなくて山の稜線が現れてこない。ロケを1泊延長しても状況は変わらず、天気ばかりはどうすることもできないとはいえ、申し訳ない気持ちでいっぱいの最終日の夕飯時。

「旅行してて雨に降られるなんてことは実際あるわけだし、これはこれでいいんですよ」

帯同していたクリエイティブディレクターが、殊更私を慰める風にではなくサクッと言いました。私はこの言葉に救われたというのとは違って、ああそうだ、たしかにそうだ、その通りだとつくづく納得しました。雨降りをネガティブに捉えすぎていたんです。雨は降るもんなんだから、それはそれでいいんだ。

ただ、こうした観光PRビジュアルを撮る現場でそんな判断をしてもらえるのは稀なんじゃないかといまだに思います。この人の考え方に出会えたことは私にとってまさに僥倖です。

これがきっかけになって、その後雨降りがちっとも気にならなくなりました。むしろ雨降りを生かして、「ビニール傘をさしてメリーポピンズのイメージで」とお願いして舞台俳優さんに雨中踊ってもらって撮影したこともあります。

 

発想の転換を教えてもらった、大事な現場です。なのでこのときに出来たポスターも新しいウェブサイトにもちろん載せます。

 

7月いっぱいで作業を終わらせて、8月から公開し、アナウンスしまくる。すると面白そうな仕事がざくざく舞い込む・・・という自分に都合のいいイメージをめいいっぱい膨らませて、罰金を支払うことなくこの作業を終わらせたいと思います・・・いや、終わらせてみせます!乞うご期待(自分へのハードルも上げて、と)。

(今回の写真は、リニューアルするウェブサイトのTOPページに使う写真を掲載しました。海の写真が10点登場します)

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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