フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

ファミリーポートレイト

こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

先日、父方の従兄弟から依頼があり、彼の家族を撮影しました。

 

彼の母親が私の父の妹で、干支ひと回り分くらい年下なので、彼が物心ついた頃すでに10代後半を迎えていた私は、幼い彼と遊ぶ機会はなく、家も離れていたので顔を合わせるのは正月くらい、そのときに近況を交わす程度の付き合いでした。それがここ数年で急にやりとりするようになったのはSNSがきっかけです。音楽フェス好きな彼は、私の友人の音楽ライターさんのことを知っていて、住まいが近いことも判明。身内ということ以外接点がないと思っていたけれど、いきなり回線が繋がったかのように急に身近な身内に。「奈緒美ねえちゃん」なんて呼んで慕ってくれているようだし、親戚関係第2章が始まったみたいな感覚でなかなかに新鮮です。

 

そういえば彼が結婚したことや子どもが生まれたことはその都度母から聞いていたっけな、と彼が更新するSNSを見て思い出しました。近所だしランチでもしようかと声をかけて東京で会ったのは去年の春が初めてで、遅くなったけどお子さん誕生おめでとうとランチを奢り、せっかくだからと記念写真を撮って後日送りました。

 

娘・ハルちゃんの誕生日近辺に毎年家族写真を残そうとパートナーと決めたとかで、「毎回奈緒美ねえちゃんに撮影お願いするからよろしく!」と連絡があったのは今年の4月のこと。いつまで続けるのか、たとえば20歳になるまで等々詳しくは決めていないのかもしれないし確認してもいないけれど、依頼を受けて真っ先に思ったのは、頑張ってフォトグラファーであり続けねば!ということでした。自分には子どもがいないけれど子どもの世界とは関わっていたい、撮ることを通して関わることが出来る。これまでそう思って子ども関連の撮影を積極的にしてきたところにはからずも、身内の家族の風景を見つめ記録し続けるミッションが飛び込みました。

とりわけ殊更な演出をせず、その日そのままの家族の姿を撮ること。たとえばこの先ハルちゃんにイヤイヤ期が訪れるかもしれないし、家族で写真を撮るなんて恥ずかしいとカメラに顔を向けてくれないこともあるかもしれない。

 

自分の子ども時代を振り返ってみてもたしかにそういう時期はあって、中学の卒業アルバムには目に入りそうな長さの前髪で鎧った無表情な自分の顔が残ってます。今思えばあの頃が反抗期だったんだなと笑っちゃうんですが、そういうことがこの先ハルちゃんにあったとしても、それは長く続くであろう人生の1シーズンととらえてそのまま写していく。笑いたければ笑えばいいし、カメラがイヤならレンズの方を睨んでくれたって構わない。私からは笑顔やポーズを求めない。毎年この時期に健やかにカメラの前に来てくれればそれでいい。そんなふうに方針を立てました。

 

だから今回の撮影で、彼女がスタジオにあるアルミの脚立にご執心でそこに登って離れようとしなくても、2歳の今、そういうものに興味があったってことで・・・と、脚立に乗った彼女の周りを両親が囲む形で撮影をしました。彼女の着ている服が映えるように背景に水色のペーパーを垂らしてスタジオ撮影セッティングにしたのに、いきなりビジュアルも機能も実用このうえないアルミの脚立が写り込む・・・大人3人で大笑いしました。

後日、写真のセレクトをしているときのこと。従兄弟のフォルムが私の弟そっくりなことに気付きました。驚きました。ちょっと太めな体格で、そのちょっと具合とか太めの印象が弟にそっくり。きっと骨格が似てるんだ、だからそこに肉が付いた形が似るんだな。ということは、この骨組みは父方の形質か・・・ああ、身内なんだなあと、からだの奥の方からじわじわと納得する気持ちが湧いてきました。

これまで撮った家族写真では、この子の笑った口元はお母さんにそっくりだとか、目元がお父さんだねとか、写真の中における共通点をたびたび見つけました。今回は身内を撮ったことで、そこに写ってはいない身内との共通点に気付きました。血縁であることが見える形として感じられました。枝分かれしながら引き継がれていくものの存在を意識しました。最近ではほとんど思い出すことのなかったとうに亡くなっている父方の祖父母のことを想いました。

従兄弟も弟ももう少し体重を落とし身体を絞ったほうが見た目においても健康においてもよかろうとは思いますが、今回ばかりはちょっと太めなことに思わず感謝です。

 

  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

-フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々, 連載シリーズ