稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

ないない尽くしから誕生!沖縄産カカオと沖縄ブランドのチョコレート

沖縄・国頭村の鏡地海岸

みなさん、こんにちは! 常識に捉われないアイデアと大胆な行動力を持つ「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけて東奔西走、稀人ハンターの川内です。

 

東京は梅雨真っ盛りで、毎日どよんとした空模様です。でも、梅雨が明けたら夏が来る! 夏といえばサマーバケーションが待っています。

 

みなさんはもう、夏休みの予定を決めましたか? 我が家では妻も娘も僕も沖縄が好きで、コロナになる前は毎年のように通っていました。プライベートでは2019年の夏に行ってから丸3年も経っているので、夏の積乱雲のように沖縄に行きたい気持ちがモリモリ盛り上がっています。

 

我が家と同じように沖縄好きで、夏の沖縄旅行を予定している人も少なくないと思うので、今回は沖縄のおすすめスポットをご紹介!

不可能を可能にした男

2022年5月にオープンしたカフェ兼工房

その場所は、沖縄北部に位置する大宜味村にあります。沖縄発のチョコレートベンチャー「OKINAWA CACAO」が今年5月にオープンしたばかりのカフェ兼工房「OKINAWA CACAO CAFE」です。古くからの古民家をリノベーションしたというその建物は、東京にあっても流行りそうな居心地の良いオシャレカフェです。

 

稀人ハンターよ、どうした? 突然、観光雑誌に載っていそうなオシャレカフェを取り上げるなんて? と疑問に思った方もいるかもしれませんが、ぜひそのまま読み進めてください。このカフェのオーナー、川合径(かわい けい)さんこそ、沖縄で不可能を可能にした稀人なんです!

たわわに実った沖縄産カカオ

いやー、驚愕しました。カフェから徒歩数分のところにあるビニールハウスに案内してもらい、足を踏み入れた時のこと。そのなかには青々とした葉を茂らせた樹が何本も生えていて、小さなラグビーボールのような形の実が枝からいくつもぶら下がっていました。それが、川合さんが育てた沖縄産カカオ! これがどれだけ稀少なものなのか、説明しましょう。

 

カカオの栽培に適した地帯を表す「カカオベルト」は、赤道を挟んで北緯20度から南緯20度まで。北緯26度の沖縄本島は6度も外れており、栽培はほぼ不可能と言われてきました。

 

ちなみに、コーヒーの栽培に適した地帯を表す「コーヒーベルト」は赤道を挟んで北緯25度から南緯25度までのエリアで、沖縄は1度外れているだけなのですが、それでも沖縄でコーヒーの樹を育てるのはとても難しく、商業ベースではほとんど存在しません。

 

1度でも難しいのに、6度って! 沖縄ではこれまで何人もがカカオの栽培に挑んでは失敗してきました。しかし! 川合さんは2021年、カカオの栽培に成功したのです。1個、2個のまぐれじゃありません。昨年は60個、今年は100個以上のカカオが実をつけたのです。

 

しかも! 川合さんは農業もチョコレートの製造も未経験で、縁もゆかりもない沖縄で2016年に起業したという大胆過ぎるチャレンジャーなのです。『Youは何しに日本へ?』という人気番組がありますが、径はなんで沖縄へ?

やりたいことをやる前に

明治大学農学部出身の川合さんですが、もともと農業に興味があったわけではありません。地球の環境やまちづくりに関心があり、それらについて学べるのが農学部だったそうです。

 

川合さんが大学に入学したのが1996年で、卒業は2000年。当時は今ほどに環境やまちづくりへの意識が高くなく、就職先も少なかったため、「最先端の成長分野で、若いうちから仕事を任せてもらえそうな会社にいこう」と気持ちを切り替え、半導体の商社に入りました。

 

数年後、もともとやりたかった道に軌道修正をしようとしますが、転職エージェントに「実績もないし、経験もないから紹介できない」と言われてしまい、断念。川合さんは、自分を鍛え直そうと、半導体の営業を続けながらビジネススクールに通い始めました。

 

そこで2年間、アントレプレナーシップ(起業家精神)を学び、最終日、日本の地方における持続可能なまちづくりに焦点を当てたビジネスプランを発表したところ、その日の講師をしていた著名な経営コンサルタントから「うちで修行しなさい」と声をかけられました。

 

「その先生には『どんな仕事をやっても人が関わる。人を知ることはすごくいい勉強になるから』と言われました。僕はビジネススクールでスキルを身に着けて自分がやりたい職に就くことばかり考えていたんですけど、人を知るのが先だと言われて、なるほど、と思いました」

運命のバレンタインデー

カカオの様子を見る川合さん

2007年、半導体商社を辞めた川合さんは、人材育成、企業研修などを手掛けている経営コンサルタントの会社に転職。そこで、新規事業の立ち上げと運営を任されました。

 

この仕事で全国を巡るようになって気づいたことが、ふたつ。ひとつは、日本の地方の風景や伝統、文化はそれぞれ個性的で価値があるのに、それを守るために必要な担い手が不足していること。もうひとつは、地方だと小さなパイの奪い合いになる可能性が高いので、競合を避けるためにも、オンリーワンが求められること。

 

それはなんだ? と考えていた時に、沖縄でコーヒー作りをしている人たちがいることを知り、「コーヒーは地域と品種で味が異なり、地域ブランドが生まれている。面白い!」と感じたそう。

 

そして2012年2月14日、妻からバレンタインチョコをもらった川合さんは、パッケージを見てハッとしました。産地が異なるカカオ豆で作られたチョコレートがいくつか入った商品だったのです。

 

コーヒーと同じようにカカオも産地によって風味が異なること、カカオだけではチョコレートにならず、「素材をプラスすること」が前提なので、地元の素材を加えれば地域ブランドを作りやすいことを知った川合さんの心が動きます。

 

「ということは、カカオが沖縄産じゃなくても、沖縄ブランドのチョコレートは作れるんですよ。農業って、時間がかかるじゃないですか。カカオは実がなるまでに4、5年かかるんですよ。栽培に成功してから仕事を始めようって言っても、それは無理ですから。でも、チョコレートなら、カカオを育てながら沖縄ブランドを先に作ることができると思いました」

独学でチョコレートづくり

地元の食材とコラボしたチョコレート

2016年3月に起業すると決め、2015年後半から沖縄で事業の場所探しを始めました。仕事で沖縄には何度も行ったことがありましたが、特に深い縁はなく、まさに体当たり。

 

なかなかポジティブな反応を得られないなか、前職の知人を頼りに大宜味村を訪ねた時、農業委員会や集落の人たちに、自分のやりたいことを話しました。すると、「じゃあうちの畑使っていいよ」という人が現れる、まさかの展開に。それならぜひ、という流れになって、大宜味村に拠点を置くことに決まったのです。

 

2016年3月、株式会社ローカルランドスケープを設立。大宜味村の田嘉里集落で一反(約990平方メートル)弱の畑を借り、カカオ商社から輸入した種を2000鉢以上に蒔きました。

 

カカオ栽培と同時に、チョコレート事業もスタート。チョコレートを作ったこともなかった川合さんは当初、製造をアウトソーシングし、地元で育てられているシークワーサーとカラキ(沖縄シナモン)、カカオ畑の脇に生えている月桃(ゲットウ)の葉などを使ったチョコレートを開発しました。

 

プロに作ってもらったチョコレートを持ってホテルや空港などに営業をかけると、沖縄の素材を使ったチョコレートはほかになく、基本的に好反応で、少しずつ卸先が増えていきました。ただ、アウトソーシングしている分、経費がかかるため、起業から2年後の2108年、自社製造に切り替えることを決意。ほぼ独学でチョコレート作りを始め、試行錯誤を重ねました。

 

さらに翌年7月には、大宜味村のすぐ隣りに位置する国頭村にある工房を改装し、チョコレートの工房とショップを兼ねた小さなお店「OKINAWA CACAO STAND」をオープンします。

「OKINAWA CACAO CAFE」誕生

こうしてチョコレート事業を少しずつ拡げながら、カカオの栽培も続けました。ひとつの栽培方法に統一すると、なにか起きた時に全滅しかねません。なんのノウハウもないなかで、カカオをグループに分け、土壌や日射量などの条件を変えて観察することを繰り返しました。

 

それでも、なにかしらの理由で枯れてしまうカカオが出てきます。2016年に植えた2000鉢が、100鉢、200鉢とどんどんダメになっていきました。そのなかの200鉢が見事に生き残り、2021年1月、カカオの初収穫を迎えたのです。

 

この間、バレンタインシーズンに県外の百貨店に出店するなどチョコレート事業も成長。琉球大学で作られているハチミツを使用したグラノーラ、今帰仁村(なきじんそん)で採れたスイカなどのドライフルートをチョコレートでコーティングしたものなど商品数が増えていました。

 

「OKINAWA CACAO STAND」での製造に限界を感じていた川合さんはさらなる勝負に出ます。もともと拠点にしていた一軒家を改装して、広々とした工房とカフェテラスを備える「OKINAWA CACAO CAFE」を開いたのです。これが、冒頭に紹介したオシャレカフェ。

 

いかがでしょう? チョコレート作りの経験なし、農業の経験なし、沖縄とは特に縁もなし。ないない尽くしの男が挑んだ、オンリーワンのものづくり。沖縄産のカカオを使ったチョコレートはまだ完成していませんが、沖縄の素材をふんだんに使ったチョコレートが「OKINAWA CACAO CAFE」で待っています。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

ADDRESS

OKINAWA CACAO

OKINAWA CACAO STAND
沖縄県国頭郡国頭村字浜521
TEL : 050-5241-8152
11:00-18:00 火曜定休

OKINAWA CACAO Factory & Cafe
沖縄県国頭郡大宜味村田嘉里555
TEL : 050-5241-8152
9:00-18:00 火曜定休

ONLINE STORE

 

 

 

 

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  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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