フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

ダンスを撮る、観る

こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

先日、ダンス公演の撮影をしてきました。デザイナーさんからの紹介がきっかけで数年前から撮影を通して関わるようになった福祉施設・工房集のメンバー10名がダンサーとして参加した公演で、私自身ダンスを撮るのは人生二度目。一度目がだいぶ前のことなので今回初めてのような心地でちょっとドキドキして臨みました。

 

このダンス公演、2020年夏からワークショップがスタートし、新型コロナウィルス感染拡大の影響で2021年に2度の公演延期。今回満を持してようやくこぎつけた開催でした。出演するみんなの気持ちが、めいいっぱい膨らんではち切れそうになっているのは公演前日の通し稽古から一目瞭然で、溜め続けられてきたエネルギーが一気に解き放たれ、一人一人がこれ以上ないほどきらきらしていました。私は彼らの表現するエネルギーにただただ圧倒され通しでした。

私自身、学生の頃に一度だけ舞台に上がったことがあります。

下北沢で開催される演劇祭に世田谷区民演劇グループのいちメンバーとして参加しました。

子どもの頃から演劇漫画「ガラスの仮面」が大好きで、大学入学のタイミングで暮らし始めたここ東京ではたくさんの舞台が日夜おこなわれていることに感激し、せっせと劇場に足を運んでいた矢先のこと。たまたま区のフリーペーパーで区民演劇グループへの参加者を募っていたのを見つけ申し込みました。プロの演出家が半年間、週に一回稽古をつけてくれ、演劇祭の中の公演のひとつとしてなんと、老舗の本多劇場の舞台に立ったのです。

あのときの昂揚感、舞台の上の光、みんなでひとつのものを作り上げるときのエネルギー・・・全部覚えています。2回公演のうちビデオ撮影が入る1公演で、一瞬頭が真っ白になりダンスの振り付けを忘れ適当に踊ったことも(ビデオにしっかり記録されていました・・・)、舞台が終わった後の脱力感も、ええ、丸ごと覚えています。

舞台の上はたくさんのエネルギーが集まり解き放たれる場所です。

度々の延期を経てようやく開催されたダンス公演で、工房集のみんなが見せてくれるダンスにエネルギーの軌跡を感じました。心臓をわしづかみにされました。彼らひとりひとりが発する表現を、そのまんま写真に収めたい気満々で撮りまくりました。生命が躍動していました。踊る悦びにあふれていました。ここはなんと素敵な場所だろう、そう思ったら涙が出ました。心が動く、感動するということの輪郭をはっきりと意識しました。私の感情の波形が上に向かって大きく波打ちました。

延期を繰り返す過程で、出演予定だったメンバーのひとりが病気で亡くなっていました。おととしの秋、初めて稽古を撮りに行ったとき、口元に微笑みを浮かべながら自分のテンポで静かに舞っていた彼女は、なんと、撮り溜めてあった稽古映像でこのダンス公演に参加したのです。

公演後半、舞台後方に人の高さのスクリーン板が立てかけられ、そこに彼女の生前の踊る映像が映し出されました。その周りでは生身のメンバーが踊っています。時にそこに手を掛け、時に彼女に向かって踊るなどして、さもそこに彼女の肉体があるかのように。映像の中の彼女のダンスに呼応するかのように。スクリーンの彼女は全く違和感なくその場になじんで踊る姿を見せていました。

参加したかった彼女の気持ち、一緒に踊りたかったみんなの気持ち、参加させたかったスタッフ皆さんの気持ち、そうした気持ちがそのスクリーンの演出に凝縮されていました。亡き人を送るのにこんな表現方法もあるのかと、その送り方、死を悼む形に胸を打たれました。

一緒にいたかったよ。ありがとう。さようなら。忘れないからね。彼女へ向けたいくつもの言葉や気持ちが踊る彼らの全身から放射されて私の元へも届きました。撮りながらたくさんのものを受け取ったように感じています。

このダンス公演の映像は工房集のYouTubeチャンネルで公開されています。是非ご覧ください。

 

 

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  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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