みなさん、こんにちは! 常識に捉われないアイデアと大胆な行動力を持つ「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけて東奔西走、稀人ハンターの川内です。
暑い、暑いと騒いでいるうちに、夏が過ぎ去ろうとしていますね。皆さんは楽しい夏を過ごせましたか? 僕は相変わらず取材であっちに行ったり、こっちに行ったりしているうちに、あれ、もう1年の3分の2が終わっちゃったの? と半ば呆然としております(笑)
暑さが和らぎ、秋の気配を感じると、家の外に出たくなりますよね。ちょっと変わった公園で、心地よい風を感じながらピクニックなんて、いかがでしょうか? ということで、今回、皆さんに紹介するのは、2021年10月1日、焼き物の「波佐見焼」の町として知られる長崎県波佐見町にオープンした、面積1200坪の公園「HIROPPA(ヒロッパ)」! ここのオーナーは、波佐見町の産地問屋「マルヒロ」の3代目、馬場匡平さん。そう、ヒロッパは全国的にも珍しい「私設」の公園なんです。
倒産寸前からのV字回復
ヒロッパの説明をする前に、「波佐見焼」について触れようと思います。波佐見町は有田焼で有名な佐賀県の有田町と接しており、400年もの間、有田焼の下請けを担ってきました。日常で使う器を大量生産するために型屋、生地屋、陶土屋、窯元、上絵屋、産地問屋と分業制が発達したのが特徴です。現在も日用食器では日本屈指の産地で、およそ16%のシェアを誇ります。
人口約1万5000人の小さな町ながら、バブル期の1991年には産地生産額が175億円。しかし2000年頃、生産地表記の厳密化の波を受けて「波佐見焼」と名乗り始めると、無名だったために売り上げが激減し、2008年には56億3800万円と3分の1以下になりました。
1957年創業の産地問屋「マルヒロ」も、2000年以降、厳しい経営を強いられます。ちなみに、産地問屋とは外部からの注文をまとめ、職人に発注し、完成品を受け取って配送などを手配する役割を担う波佐見町ならではの仕事です。
2008年6月、マルヒロの2代目を務める父親から「戻ってきてほしい」と言われて帰郷した当時24歳の馬場匡平さんは、自分の月給を知って絶句したそうです。その額、5万円! マルヒロがどれだけ苦境だったかわかる金額ですよね。
馬場さんが働き始めた年、売り上げは過去最低の8500万円にまで落ち込み、借金が売り上げの1.5倍という倒産寸前の状況に。2代目はわらをもつかむ思いで、2009年の夏、奈良の老舗麻織物メーカー、中川政七商店のコンサルタントを受けることを決意します。
13代目、中川政七氏のもとでマルヒロの経営再建を託されたのが、馬場さん。もともと焼き物に興味もなく、なんとなく仕事をしていた馬場さんにとってプレッシャーのかかるプロジェクトでしたが、試行錯誤の末に生み出したのが、「HASAMI」。2010年、「60年代のアメリカのレストランで使われていた大衆食器」をテーマにしたカラフルでポップ、機能的で丈夫なマグカップをリリースすると、セレクトショップなどに5万点を出荷する起死回生のヒットになりました。
さらに、絵柄のないシンプルなデザインが注目を集め、吉田カバンや世界的なアメリカのフォントデザイン会社「ハウスインダストリーズ」など国内外のさまざまな企業から、OEMやコラボのオファーを受けるようになったのです。これで、コラボ商品が話題になると依頼が増えるという好循環が生まれ、2016年7月には売り上げが3億円に達しました。
町に人を呼び込むための公園
見事に経営再建を果たした馬場さんは、「脱物質」を考えるようになりました。
「焼き物を作るには、山から土を掘り出さなきゃいけないんですよね。しかも、焼き物は腐らないんです。今は、山を崩すのはダメですよっていつ言われるかわからない時代だし、ゴミ問題で突っ込まれるかもしれない。将来、今の仕事がどうなるのかわからないから、焼き物という物質以外のところで商売できたらいいなと考えていました。脱物質です(笑)」
社員を巻き込み、アイデア出しをしているうちに馬場さんは気づきます。「産地工芸ブーム」もあって右肩上がりで伸びてきた波佐見町全体の焼き物の出荷量が、頭打ちになっていました。脱物質化を進めても、マルヒロの核となる事業が焼き物であるのは変わりません。そこで新たな一手として考え出したのが、「公園」です。
「子どもが生まれてから、波佐見町には子どもたちがのびのび遊べるような公園がないと思ったんですよ。マルヒロが公園を作ったら、小さい子が焼き物に興味を持ってくれるかもしれないし、若い子たちも、面白い会社だから訪ねてみようと思うかもしれない。波佐見の職人も高齢化が進んでいるんですが、町にたくさん人がいることで、工芸をする人が出てくるし、人が集まるところで商売が生まれると思います」
2018年8月、3代目に就任した馬場さんは、1200坪の土地を購入。東京の設計事務所「DDAA」と組んで、公園づくりを始めました。たくさんの人が集まる魅力的な場にすることを優先し、建築家、アーティストやクリエイター、庭師といった仲間たちと、「こんなのがあったらいいね」とコンテンツを加えていきました。
例えば、マルヒロの焼き物とコラボしてきたイラストレーター兼アーティスト、竹内俊太郎さんによって大きなうつぼが描かれた「YAKIMONO BEACH(やきものビーチ)」の砂は、廃材となった焼き物を粉砕したものが使われています。あえて傾斜をつけることで、夏には水をためて水遊びできるようになっています。
ベンチのようなコンクリートの造形物は、かつてコラボした世界的な現代アーティスト、DELTA (デルタ)ことボリス・テレゲンさんが、ヒロッパのために作ったもの。上空から見ると『HIROPPA』という形になっています。
格子状に組まれた高床式倉庫のような遊具「あみあみジャングル」を貫くように生えている桜は、国内外で活躍する庭師で、馬場さんの友人の山口陽介さんによる設計。春になると、「あみあみジャングル」のなかに桜が咲きます。
公園をベースに計画する脱物質
こうした遊び心あふれるデザインのなかに、しっかりと「脱物質」が組み込まれています。例えば、ヒロッパにはパッションフルーツやキウイなど、20種類以上の果樹が植えられています。果実を収穫して、フレッシュジュースにしてお店で売るそうです。公園の一角では20種類以上のハーブが栽培されていて、こちらは2022年5月から稼働予定のお弁当屋さんで使用されます。
さらに、馬場さんはヒロッパの奥のスペースに5万本のひまわりを植えました。残念ながら2021年は大雨で流されてしまったのですが、このひまわりも「脱物質」につながります。馬場さんがアメリカのポートランドに行った時、タクシードライバーが運転しながらひまわりの種を食べていたのを思い出したそうで、ひまわりの種を炒っていろいろなフレーバーで食べる『フリフリシード』を計画中。さらに、高カロリーで軽量なので、トレッキングする人に行動食として販売することも考えているとか。
馬場さんがこの公園の建設に投じた資金は、なんと2億円。しかも、入場無料で誰でも入ることができます。これは、馬場さんにとって自社と町の未来への投資なのです。
「気軽に人を呼べるような公園を作って、町の人が友達に紹介してくれれば、人が人を呼びますよね。それが町の観光収入につながると思うし、遊びに来た子どもたちや若い子が焼き物やりたい、ひまわり育てたいとかマルヒロに興味を持ってくれればいい」
ヒロッパはすでに人気スポットになっていて、僕が取材に行った日は大勢の家族連れやカップル、若者同士のグループで賑わっていました。併設しているマルヒロの焼き物を売るショップやカフェの売り上げも伸びていると言います。
今夏には、さまざまなワークショップやイベント、フリーマーケットなどが開かれていて、ますます魅力的な場所になっているようです。今後も、ユニークな遊具やアーティストの作品などが増設されるそうで、目が離せません!
長崎の波佐見町に誕生した、旅の目的地になる公園「ヒロッパ」。長崎旅行、あるいは佐賀に有田焼を観に行く方も、ぜひ立ち寄ってほしいと思います。僕もその変化を楽しみに、必ず再訪します。
稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。
ACCESS
公園 ヒロッパ
長崎県東彼杵郡波佐見町湯無田郷682
Tel: 0956-37-8666
Open: 10:00-18:00 不定休