稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

肌寒くなると恋しくなる。沖縄・南大東島の旅と唯一無二のラム酒

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

夏の間は、熱風に茹でられて「あち~、早く秋にならないかな~」とへばっているのに、涼しくなってくると、夏の日差しが恋しくなってきませんか?笑 僕には、肌寒くなればなるほど「また、行きたい」と思う場所があります。でも、なかなか気軽にはいけない遠い場所。それは、沖縄の南大東島です。

 

沖縄本島から東へ約360キロの位置にある南大東島は、太平洋上にポツンと浮かぶ絶海の孤島。行き方は、那覇の泊港から船か、那覇空港からプロペラ機に乗るか。船だと約15時間(!)かかるので、僕は約70分で到着するプロペラ機を選びました。だいたい東京―大阪間のフライトと同じぐらい。遠い!

なぜ、南大東島に向かったのか? そこでは、世界でもほかにないラム酒が造られているんです。実は、ビール、ワイン、日本酒、焼酎などなど数あるお酒のなかでも、僕が一番好きなのが、サトウキビが原料のラム酒。共感してくれる人は滅多にいないけど(笑)、あの深~い甘みがたまらないんですよね。

 

僕は2006年から2010年までスペインのバルセロナに住んでいたんですが、スペイン人はカフェでよくコーヒーのエスプレッソを飲みます。その時に、小さじに大盛りの砂糖をこれでもかっていうほど入れるので、「甘すぎない?」と聞いたら、こう言われました。

「人生は苦いんだから、コーヒーぐらい甘くてもいいじゃないか」

 

僕にとっては、ラム酒も同じ。ふくよかな甘みを味わいながら、決して甘くない人生に思いを馳せるのも、いい時間なんです。

 

OLの思い付きから生まれたラム酒

閑話休題。南大東島のラム酒の話でした。そのラム酒、「COR COR(コルコル)」は、2004年に創業された沖縄のベンチャー、グレイス・ラムが生み出したものです。そして、グレイスラムを立ち上げたのは金城祐子さん。なんと、一般企業で働いていた元OLさんです。

きっかけは、友人夫妻が経営するバーで、ラム酒の原料がサトウキビだと聞いたこと。

「沖縄にはサトウキビがたくさんあるのに、ラムがない。泡盛はタイ米を輸入してつくっているから、沖縄のサトウキビでラムをつくったら、そっちのほうが地酒っぽくない?」

 

この思い付きが頭から離れず、当時働いていた会社の親会社が募集していた社内ベンチャー制度に「沖縄のサトウキビでラム酒を作りたい」と応募。その企画が厳しい社内審査をクリアして、見事に採用されたのです。

 

それは決してとんとん拍子というわけではなく、お酒づくりもサトウキビ栽培にも詳しくない金城さんは何度も壁にぶち当たり、時には涙を流して諦めかけたことも。それでも挫けず、当たって砕けろである人物を口説き落としたことが、最大の追い風になりました。

 

その人物とは、玉那覇力(たまなはつとむ)さん。沖縄の地酒である泡盛の関係者であれば、その名を知らぬ人はいないと言われる、レジェンド的な泡盛の造り手です。

社内審査の時点で、サトウキビの一大産地である南大東島からはラム造りについて了解を得ていたものの、いい造り手がいなければ絵に描いた餅にすぎません。しかし、なかなか適任が見つからず、手詰まりになった時に、金城さんが藁をつかむような想いで連絡をとったのが、玉那覇さん。泡盛とラムは、仕込み、蒸留、貯蔵の方法に関して共通点が多いため、造り方を応用できるのです。その時、玉那覇さんはたまたま前の仕事を退職したばかりだったため、金城さんは玉那覇さんに会って真っ正面から訴えました。

 

世の中の大半のラムが、化学香料や科学色素などの添加物によって色付け、香り付けされていること。お菓子などにラムを使っているメーカーも、添加物を使ったラム以外に選択肢がないこと。だから、「南大東島のサトウキビで無添加、無着色のラムを作りたい!」。

 

この話を聞いた玉那覇さんは、沖縄初、南大東島発のラム酒という新たな挑戦に奮い立ち、製造責任者に就くことを承諾しました。そして、2年間の試行錯誤を経て、無添加、無着色のラム「コルコル」を完成させたのです。

 

あえて伝統的な手法を採用

世界を見渡せば、無添加無着色のラムはいくつかあります。そのなかでもコルコルはなにが特別なのか、簡単に説明します。

 

現在、南大東島でグレイス・ラムが生産しているラムは、2種類。ひとつは、南大東島の製糖工場でサトウキビから砂糖をつくる過程で生じる不要物「糖蜜」を使った赤ラベル。ちなみに、この製法でつくられるラムが世界の97、98%を占めます。

 

もうひとつは、南大東島産の新鮮なサトウキビの搾り汁だけを使って発酵・蒸留する製法「アグリコール」で作った緑ラベル。この製法のラムは世界の生産量の2~3%しかないと言われていますが、グレイス・ラムの緑ラベル「コルコル・アグリコール」はさらに希少なんです。

 

アグリコールの製法には、搾ったばかりの汁をそのまま使う伝統的な手法と、搾り汁を煮詰めてシロップ化する近代的な方法があります。近代的な方法は冷凍保存できるメリットがありますが、コルコル・アグリコールが採用しているのは、よりフレッシュな伝統的手法。玉那覇さんが編み出したこの方法でつくられた無添加無着色のラムは、恐らく世界にひとつしかないのです。

 

僕はこの「コルコル」の取材のために、南大東島を訪ねたのでした。取材は12月で、東京はすでに冬そのものでしたが、南大東島は初夏の暖かさで、半そで、半ズボンで十分! 宿でスクーターを借りて島のなかを走っていると、南国に旅行に来たような開放的な気分になりました。ちなみに、グレイス・ラムの工場は、昔使われていた飛行場を再利用しています。

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「南大東島でなにかを建てると、資材を船で輸送する必要があるので、本島の4倍の金額になるんです。だから最初はプレハブを考えていたんですけど、台風が来たら飛んでくよと言われて。それで役場にどこか空いている建物はありませんか? と相談したら、使ってない空港があって、古いけど空港だから丈夫だよと。しかも家賃もいらないというので、空港に決めました」(金城さん)

 

この工場、いまだに空港時代の面影がいたるところに残されていて、本当にいい味を出しているんです。売店もあって、取材後に糖蜜を使った赤ラベルと「コルコル・アグリコール」を購入しました。

南大東島のことを思い出すと、緑ラベルのフレッシュでジューシーなサトウキビの甘みと、スッキリ爽やかな香りが蘇ります。そしてまた、南大東島をスクーターで走り回りたいと思うのです。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

写真提供:グレイス・ラム

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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