稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

川内家とっておきの旅先。琉球創生の歴史を持つ「神の島」

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

これまで取材でいろいろなところに行ってきましたが、僕は旅が好きで、プライベートでも妻、娘と一緒にあちこちを訪ねています。今回はそのなかでもとっておきの旅先について、紹介します。

 

旅先を決める時、我が家ではいつも「お気に入りの場所を再訪するか」「新しい場所を開拓するか」で悩みます。勝手を知る場所で心地よく過ごすのも魅力的だし、行ったことのないところを探訪すれば、想像を超えるような出会いがあるかもしれない。

 

だいたい、僕と妻がああだこうだとけっこな時間をかけて話し合い、どちらかを選択します。でも一か所だけ、僕らファミリーがみんな大好きで、悩むことなく何度も通っているところがあります。

 

沖縄の久高島(くだかじま)です。ガイドブックにもほとんど載っていないし、載っていたとしても情報がとても少ないので、初めて聞くという方もいるかもしれません。沖縄本島の南東部に位置する安座真港(あざまこう)からフェリーで約20分、高速船で約15分の距離にある、周囲わずか8キロの小さな島です。

昔ながらの町並みが残る沖縄最大の聖地

久高島は、沖縄の人たちにとって特別な島です。「アマミキヨ」という女神が久高島に降臨し、琉球国を創ったという神話が残されていて、「沖縄最大の聖地」「神の島」などと言われています。現在も御嶽(うたき)や拝所(うがんしょ)と呼ばれる祈りの場所が島内にいくつもあり、1年間に何度も伝統行事が行われています。

 

神の島は個人の所有物ではないので、なんと久高島の土地は私有を認めず、戦前から「総有制」が貫かれてきたそうです。すべての土地は島のもので、例えば家を建てるには、島の土地管理委員会などから承認を得る必要があります。この「総有制」があることでバブル期の乱開発などから逃れた結果、今、久高島には昔ながらの町並み、きれいな海と自然がそっくりそのまま残っているのです。

港のすぐ近くに食堂が3軒あり、軽食を提供している船の待合所と合わせて、飲み食いできるのは4軒だけ。島内に小さな商店が2軒ありますが、どちらも昭和レトロな雰囲気で、なんともいい味を出しています。そのほかはほとんどが沖縄の伝統的な造りの住宅で、さらに島の北側は聖地として、ワイルドな自然が繁茂しています。夕暮れ時に島内を歩くと、道ばたでくつろいでいる野良猫たち。

 

我がファミリーはこの「手つかず感」が気に入って、これまでに3回、久高島に行きました。最初に行ったのは2013年で、2018年と2019年は2年連続ということからも、僕らの久高島へのラブが伝わるでしょうか?

 

僕の感覚だと、久高島に来る旅行者のほとんどは、港のそばの海(波打ち際から魚が見える透明度!)で遊び、レンタサイクルで島内をめぐるか、軽く散策して、日帰りで本島に戻っていきます。我が家はいつも2、3泊しているのですが、そういう旅行者はきっと珍しいんでしょう。何回目の時だったか忘れましたが、家族で自転車に乗って島をブラブラしていたら、ひとりの島民に「あなたたち、まだいたの?」と驚かれました(笑)。

 

そうそう、宿は民宿が数軒と久高島振興会というNPO法人が運営している久高島宿泊交流館という施設があります。僕らは最初、この交流館に宿泊したんだけど、2回目、3回目は古民家の一棟貸しを利用しました。

 

この古民家、所有者の先祖の写真が飾られていたり、居間やキッチンも生活感に溢れているんだけど(笑)、それがまた「おじいちゃん、おばあちゃんの家に泊まりに来た」ような感覚で、すごくくつろげるんです。しかもとても広いので、昨年は岡山在住の友人夫婦、沖縄在住の友人家族4人と一緒に、計9人で泊まりました。合宿みたいで、とても楽しい時間でした。

久高島最大のハイライト

30、40分も自転車をこげば島内を一周できる小さな島で2、3泊もなにをしているのかたまに聞かれるんですが、日帰りでは絶対に味わえない久高島最大のハイライトがあるんです。それは日の出。まだ暗いうちに自転車で宿を出発し、島の北端、「アマミキヨ」が降り立ったと言われるカベール岬を目指します。島の北側のワイルドエリアには外灯もなく、自転車の灯りだけが頼り。ドキドキしながら自転車で疾走していると、子どもの頃に戻ったような気持ちになります。

 

20分ほどでカベール岬についたら、海辺の岩場で朝陽が登ってくるのを待ちます。しばらくすると、だんだん空が明るくなってきて、雲がオレンジやピンク、赤や紫に染まります。その不思議な景色に、大人も子どもも目を奪われ、見惚れているうちに、朝陽が姿を現します。波の音を聞きながら朝陽を眺めていると心が晴れ、清々しい気持ちになって、「アマミキヨ」が降臨したと言われるのも納得です。

しばらくボーっとしたら、「朝ごはんでも食べようか」と自転車で来た道を戻るんですが、カベール岬へ通じる、両脇が草木に覆われた一本道が朝陽に照らされて、これがまた美しい。「アマミキヨが歩いたのかもなあ」と思いながら、家路に就きます。

過去3回、朝陽を見ていますが、何度見てもまったく飽きません。今年はコロナ禍で行けなかったけど、また必ず再訪します。

 

その時は、久高島で神の使い、聖なる食べ物とされているイラブー(エラブウミヘビ)について取材をしようと思っています。久高島ではイラブーの燻製を作っていて、それを煮込んだイラブー汁は、琉球王朝時代の宮廷料理だったそう。

島の食堂で食べることができるので、一度、注文したら、硬いし、苦いし、「うまい!」という味ではなかったけど、滋養強壮にいいらしく、食べた後に体の内側からカッカと燃えるなにかがありました。イラブーの漁や燻製方法は琉球時代からの手法が守られているそうで、それがどういうものなのか、前からとても気になっているのです。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※この取材は、2019年に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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