皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。
最近は過ごしやすい日も増えてきましたが、読者の皆さん、元気にモリモリ食べてますかー? ちなみに僕は暑くても、寒くても、365日モリモリ派なんですが(笑)、この季節になると、アウトドアで飲んだり、食べたりするのも楽しいですよね。ポカポカ陽気のなか、心地いい風に吹かれ、おいしいものを食べて飲んで、のんびりゆったりピクニックって、日本の春の過ごし方として最高だと思います。
皆さんは、ピクニックをするなら、どこがお勧めですか? 広々とした公園とか、少し遠出して山や森など自然を感じられるところもいいですよね。でも混雑している場所はちょっと……という方もいると思います。そこで今回は、景色が美しく、人も少ない、そしてちょっと珍しい、とっておきのピクニックスポットをご紹介します。
「独立独歩で生きていける道を探したほうがいい」
その場所は、兵庫県の神河町にあります。西側に砥峰高原と峰山高原が広がり、東側に清流・越知川が流れ、町なかには5つの名水が湧く、清々しい空気で満ちていそうなこの町では、およそ300年前からお茶が作られていました。享保10年(1725年)には、「人形寺」として知られる京都の尼寺、宝鏡寺から「仙霊茶」という銘を授っています。今回お勧めするピクニックスポットはなんと、この歴史と伝統ある仙霊茶の茶園なんです!
仕掛け人は、2018年春、東京ドーム1.7個分に相当する仙霊茶の茶園を引き継いだ野村俊介さん。もともとは一般企業の会社員で、神河町にも、茶園にも、縁もゆかりもなかった野村さんが、なぜそんな大胆な決断をしたのか、まずはその経緯をお伝えしましょう。
1978年、神戸で生まれた野村さんは、姫路にある大学を出て、2003年、神戸に本社を構える医療機器メーカーに就職。新規事業部の東京支社に配属されました。新規事業部はテストマーケティング的な役割を担っていて、野村さんは顧客を開拓するために飛び込み営業を繰り返していたそうです。ハードな仕事でしたが、もともと人と話をするのが好きで、物おじしない野村さんは「めっちゃ楽しかった」と振り返ります。
10年目には本社勤務になり、将来、会社の屋台骨になり得る事業を企画立案する役割を与えられました。しかしその時、使命感を持ってモチベーション高く働く周囲の社員と自分を比べて、「俺って、そんなに医療に思い入れあったっけ? 軽い気持ちで入社した自分には、本当に社会的意義を果たすような事業は思いつかへん……」と感じてしまいます。同時に、自身の体験やその頃の社会情勢から資本主義に疑問を抱くようになった野村さんは、「独立独歩で生きていける道を探したほうがいい」と思い至りました。
さて、これからどう生きようかと新しい道を模索し始めた時のこと。無農薬、無肥料の自然栽培で農業をしながら、セルフビルドの家に奥さんと子供3人で暮らす高校の同級生に出会い、「これが一番強い生き方だ!」と雷に打たれたような衝撃を受けて、退職を決意。2015年4月、新規就農しようと同級生が住む兵庫県朝来市に引っ越しました。
「自然栽培の茶園」という場の価値を活かす
その4カ月後、訪ねてきた友人のひとりが「お茶に興味がある」というので、知人の茶園に一緒に出向いたところ、「神河に新規就農者を探してる茶園あるで」と聞きました。そうしてふたりで見学に向かったのが、仙霊茶の茶園でした。現代はお茶の生産者が少なくなり、1990年の13万5411軒から、2015年には2万0144軒にまで激減しています。仙霊茶も後継者がいないという理由で、約300年の歴史に幕を閉じようとしていたのです。
茶園は、国道から近い便利な場所にもかかわらず清涼な空気が流れ、慌ただしい現世から隔絶されたような別世界。しかも、お茶の需要の低下と事業者の高齢化もあって、過去10年、農薬が使われていなかった。それを知った野村さんは、「広すぎる」と気乗りしない様子だった友人に代わって、「じゃあ、俺、やっていい?」と立候補したのです。
お茶の素人だった野村さんは、それから2年間、仙霊茶の茶園で修業を積み、事業継承が認められたのが2018年の春でした。会社員時代に事業開発を任されたことからもわかるように、アイデア豊富な野村さんは、それから次々とユニークな取り組みを始めました。
日本に数パーセントしかいない自然栽培のお茶の価値を伝えるために、新茶の茶葉を摘んだ日付別にパッケージし、日々成長する味わいのグラデーションをアピールしたり、月1000円、年間12000円を払うと、年に2回、お茶が届く茶畑オーナー制度を始めたり。
そして今年8月からスタートしたのが、「川辺 de BOOK CAFE in 仙霊茶畑」。参加費2000円、お茶飲み放題、椅子の貸し出しありで、茶畑の脇に流れる清流の川辺で読書をしようという催しです。僕が取材に行った時、「せっかくだから、川に足を浸しながら話をしませんか?」と誘われたので、前のめりで「ぜひ!」とお願いしたら、冷房の効いたオフィスで話を聞くよりも、何十倍、何百倍も気持ちよかったことを思い出しました。野村さんは、お茶を売るだけじゃなく、「自然栽培の茶園」という場の価値も活かそうとしているのです。
涼しい季節になったら、もちろん川辺以外の茶園のなかでピクニックできるそう(要予約/問い合わせ先:https://www.senrei-tea.com/)。完全に無農薬の空間だから、子どもたちも安心。人工的な音はなにも聞こえない茶園で、小川のせせらぎを感じながら、おいしいお茶をいただく――。なんともぜいたくなピクニック! 僕も参加できる日を心待ちにしています!
稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。
※写真提供:仙霊茶
※この取材は、2019年に行ったものです。