稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

冬の寒さを吹き飛ばす!血沸き肉躍る「悪態祭り」

皆さん、こんにちは! 常識に捉われないアイデアと行動力で「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

11月に入ると、いよいよ年の瀬感が出てきますね。本格的に冷え込んでくると気持ちも縮こまって家にこもりがちですが、血沸き肉踊り、寒さを吹き飛ばすようなお祭りが、茨城県の笠間にあります。毎年12月に開催される日本三大奇祭のひとつ「悪態祭り」です。今回は、このお祭りの体験記をお届けします。

お殿様が考案したお祭り

このお祭りでは、神主さんとかつて愛宕山に住んでいたと言い伝えのある13人の天狗の姿をした地元の有志が、愛宕山の麓から山頂にある愛宕神社までの約4キロ、途中にある16ヵ所の祠に供物を供えて歩きます。その間、観衆が悪態をつくことで1年の罪や穢れが落ちると言われています。なぜ神前で群衆が悪態をつきまくる奇妙な祭りが始まったのでしょうか?

 

愛宕神社の総代さんによると、祭りの起源は江戸時代の中頃に笠間地域を収めた土浦藩の殿様の気遣いにありました。

当時はきっと農民の生活が厳しい時代だったんでしょう。お殿様は、農民たちが不満を貯め込まないように、一年に一度、好きなだけ悪態をついてもいいという祭りを作り、ストレス発散させようとしたんです。

悪態祭りには、神聖な存在である神主や天狗に向かって悪口を言ってはいけない、という決まりがあります。だから、表向きは祭りの参加者同士で悪態をついているということになっているけど、実際のところ参加者は神主と天狗たちに好き勝手に罵詈雑言を浴びせていました。

 

「早く来いよ、バカヤロー!」

「待ちくたびれたぞ、バカヤロー!」

「足がフラフラじゃねぇか、バカヤロー!」

 

それでも神主ご一行様は、「無言の行」の最中だから終始沈黙。なぜ無言なんですか? と尋ねたら、シンプルすぎる答えが返ってきました。

神様は人間と話さないでしょ。

本当の闘いの始まり

罵声のなか歩み続ける神主さんと天狗

普段、悪態をつきなれていない品行方正のシティボーイである僕は、最初、罪悪感と恥ずかしさから「バカヤロー!」と口に出すのを躊躇していました。でも、参加者には悪態祭りに慣れている地元の方も多く、悪口も滑らか。

 

「寒いぞ、バカヤロー!」

「なんか腹へったぞ、バカヤロー!」

「小便したくなってきたバカヤロー!」

 

日々の不満ではなく、身体の状態まで悪口にするあたり、ベテランの風情が漂います。僕も見習って試しに一言「バカヤロー!」と言ってみたら、なんというかこれがまたスカッとするんです。

 

この「スカッ」が僕の穢れや罪を清めてくれるのだと思うと、驚くほどあっさりストッパーが外れ、「おたんこなす!」「へちゃむくれ!」「すっとこどっこい!」と無駄にバリエーションを豊かにして悪態をつきました。

 

人生で初めて、大声で好きなだけ悪口を言ってみると、ぶっちゃけこれが気持ちいい。なんて楽しい祭りなんだ! とテンションが上がりましたが、悪態祭りのクライマックスはこれから。

祠に供えられたお供物を手に入れると1年間無病息災という言い伝えがあり、観衆はお供物を狙って殺到します。16ヵ所の祠で繰り広げられるこの争奪戦がハイライトなのです。

 

あまりイメージがわかないと思うので、昔、テレビでよく放送されていたバーゲンセールの時を想像してください。バーゲンがスタートした瞬間、普段は目にしないような形相で髪を振り乱しながら商品を奪い合う、子どもが見たらギャン泣き必死のバーゲン死闘と同レベルの争いが、お供物を巡って展開されます。

 

ちなみに、お供物の内容は5円玉1枚、小さなお餅、焼き物のお皿、かいだれ(神事に用いる紙の幣、)、木板。これを、子どもからお年寄りまで全世代がガチンコで奪い合うのです。

 

僕は今回、どうせ参戦するなら本気で供物を狙おうと思い、16ヵ所の祠のうちのひとつ、「十三天狗祠」でスタンバイしました。ここからが、本当の闘いの始まりでした。

人生初の「バカ野郎三唱」

僕がバトルした十三天狗祠前

この争奪戦には大事な決まりがあります。

 

「供物を取っていいのは神主が儀式を執り行ってから」

 

神主の一行が「十三天狗祠」に到着する前から、僕を含む10人以上が祠の前で激しいポジション争いを繰り広げました。押し合いへし合いは当たり前、服を引っ張るなどなんでもあり状態。そのカオスのなかで、儀式の最中に手を伸ばす不届き者もいます。そういう人に対しては、棒を持った天狗が突き、叩き、断固阻止!

天狗に守られて供物を置く神主さん

そして神主がお供えをした瞬間、争奪戦のゴングが鳴ります。そこは、かつて経験したことのない戦場。始まった! と思った1秒後には、「おりゃっ!」「ぐわっ!」「ギャッ!」という言葉にならない叫びとともに目の前と背後から無数の手が伸びてきて、僕は左手を思い切り引っかかれて流血し、後ろから押し潰されて突き指。

 

しかし! 追い詰められれば追い詰められるほど燃える男、それが僕。体張ったほうが面白い原稿になるなら体を張る、それが僕。ライバルたちとの仁義なき戦いに勝利し、お餅をゲット! 「とったどー!」と叫びたい気分でした。

 

悪態祭りのフィナーレでは、お供物を取れなかった人に向けて、神主さんと天狗たちが神社の本殿から餅とお菓子をばらまきます。もちろん、この最中も観衆は罵声全開。

そして、祭りのシメは神主、天狗、観衆みんなでバカ野郎三唱! バカ野郎!バカ野郎!大バカ野郎! で明るく終わりました。

 

こんなに笑って、興奮して、真剣になったお祭りは、初めて。一年に一度でも、こんなに大人がオトナとしての仮面を脱ぎ捨てて楽しめる祭りが地元にあるのは正直羨ましいと思いました。悪態祭りを考え付いて実現した土浦藩のお殿様、本当にグッジョブ。今年は開催するかどうか未定とのことですが、もし開催されたら、もう一度、参戦しようかな?

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

※今回写真がブレがちなのは、お祭りの混雑によるものです。ご了承ください。

左手に持っているのがゲットしたお餅

ACCESS

愛宕神社
茨城県笠間市泉101
交通アクセス:岩間ICから車で15分
 

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  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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