稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

映画『君の名は。』で脚光を浴びた「組紐」の産地へ

皆さん、こんにちは! 常識に捉われないアイデアと行動力で「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

前回は、長野県塩尻市のレトロ映画館「東座」について書きました。今回はなにを書こうかなと考えていたら、そうそう、映画つながりで面白い取材があった! と思い出したので、今回はその話を書きますね。

2016年8月に公開された映画『君の名は。』は日本だけで興行収入が250億円超、海外での興行収入を合わせると約3.61億ドル(現在のレートで約398億円)に達し、世界で最も稼いだ日本映画となりました。この映画で、一躍脚光を浴びた日本の伝統的工芸品があります。主人公の男女をつなぐ重要なアイテムとして登場する「組紐(くみひも)」です。

組紐のシェアトップは意外な町

50玉以上の糸を組んで作られている帯締め

組紐とは、3本以上の糸や糸の束を組みあげた紐のことを指します。その歴史は古くて、縄文時代の土器にも組紐でつけた文様が施されています。また、奈良時代には仏具や経典、巻物の飾りつけに使用されました。その後、歴史の移り変わりとともに武具、茶道具、印籠、たばこ入れの飾り紐、そして和装束の帯締めや羽織紐として用途を広げていきました。

もともとは手で組みあげる手組紐が主流でしたが、近代に入ると量産に対応するために製紐機(せいちゅうき)などの機械で作る「機械組」が多くなっていきました。ちなみに、主に京都で作られ、のちに江戸でも発展した組紐は今も京都と東京で作られていますが、現在、国内でトップシェアを誇るのは三重県の伊賀が産地の「伊賀くみひも」です。伊賀といえば、伊賀忍者。なぜ、忍者の里で組紐が根付いたのでしょうか?

1932年創業の松島組紐3代目で、2016年に開催された伊勢志摩サミットの際、各国代表団とプレス関係者に配られたバッグの取手部分に付けられた組紐飾りを手がけた伊賀の伝統工芸士、組紐職人の松島俊策さんに話を聞きました。

「明治中期に、廣澤徳三郎という人物が東京の組紐の技術を持ち帰ったのが伊賀組紐の始まりです。伊賀の組紐が発展したのは、京都と大阪、名古屋に近いという便利さがひとつ。もうひとつは、当時、伊賀に主だった産業がなかったことですね。組紐はほとんど一般の家庭で家庭内手工業的に作られてきたので、農家の女性の内職として広がりました。あとは、伊賀は忍者の里というぐらいで秘密を厳守する地域性だったこと。もともと組紐の技術は伏せられていたので、伊賀の文化に合ったのでしょう。いまでも門外不出の柄がありますから」

松島さんが京都で修業をしていたバブルの頃は、高級な和服がよく売れたために質の良い帯締め、羽織紐も人気があったと言います。でもその後、バブルが弾けると和服業界は一気に冷え込み、組紐業者も大打撃を受けました。

そうして京都、東京の組紐業者が激減していくなかで、大都市に近く、高品質な手組紐と量産できる機械組のどちらもニーズにも応えられる伊賀に注文が流れてくるようになってきて、伊賀のシェアが拡大したのです。

帯締め完成までの日数を聞いてびっくり!

男性用紋付きの羽織紐

今でも着物の帯締めは主力の商品で、特に女性が成人式に着る振袖用の帯締めは年間を通して注文があるほか、最近では、紋付き袴の羽織紐の注文も増えているという。松島さんがポリエステルで作った男性用紋付きの羽織紐を見せてもらうと、フワフワで光沢のある毛先の広がりが美しい!

取材に訪れた日には、松島さんの妻、ひろ美さん、長男の健太さんと次男の康貴さんが手組の作業を見せてくれました。

左側が高台、右側が丸台

紐を組む道具には「高台」と「丸台」があり、それぞれ特徴があります。大掛かりな木製の高台は使う糸の数が多く、しっかりとした組紐ができ、美術工芸品や絹の帯締めなどフォーマルなものを作ることが多いそう。丸台は普段使いのカジュアルなものを作るのに使いますが、柔らかく、伸縮性がある紐ができるので、着物を着慣れた人は、丸台の紐を好むとか。

3人のなかで一番手慣れた様子のひろ美さんは、松島さんのお母さんから手ほどきを受けて7、8年(取材時)。この日は高台で60玉の糸を使った、長さ1メートル55センチの帯締めを作っていたのですが、驚いたのは完成までの日数。「1日高台に座っていたとして、3、4日ぐらいです」。松島さんが「よっぽど好きじゃないと、この仕事はできません」と言っていた意味がわかりました。ふたりの息子さんは、奥深く、決して楽ではないこの仕事を継ごうとしています。

松島組紐の工房では1965年から製紐機を導入していて、「マシンメイドもできるし、手組もできるという環境にあったから、いままで続けられた」と松島さん。松島組紐は伊賀の町なかに組紐の小物や帯締めを販売するショップを構えており、郊外の工房「くみひも studio 荒木」では、丸台を使った体験教室も開かれています。

また、伊賀の観光名所である伊賀上野城や伊賀流忍者博物館の近くに「伊賀伝統伝承館 伊賀くみひも 組匠の里」があり、ここでもさまざまな組紐が展示され、組紐体験もできます。組紐に興味を持った方は、ぜひ伊賀へ!

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

※この取材は2017年に行ったものです。

のどかな集落にある松島組紐の工房

ACCESS

伊賀伝統伝承館 伊賀くみひも 組匠の里

三重県伊賀市上野丸之内116-2
http://www.kumihimo.or.jp/

 

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  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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