稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

京都土産に一押し!日本の「Bento(弁当)」を海外に広めたフランス人のお店「Bento&co」

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

皆さんは、好きな季節ってありますか? 僕は、5月から6月にかけて、梅雨入り前のこの時期が大好きです。暑くもなく、寒くもない。草花や木々の緑がいきいきとしていて、吹き抜ける風も冷たすぎず、どこか優しい。僕はこの時期が、日本のベストシーズンのひとつだと思っています。

 

そして、梅雨入り前のこの時期に行きたくなるのが、京都。春の桜、秋の紅葉というイメージが強いけど、どうしても観光客が多くなって、混雑しがち。この時期はそれほど人も多くないし、町歩き、食べ歩きを楽しめる気候なので、ほんとにおススメです。

 

ところで、皆さんは旅先でお土産を買いますか? 京都に、一押しのショップがあるので、紹介しますね。「Bento&co」。もしかしたら、知ってる! という方もいるかもしれません。新京極にある日本製弁当箱の専門店です。実は、このショップのオーナーのフランス人、トマ・ベルトランさんはユニークな経歴の持ち主なんです。

 

京都情報の発信で人気ブロガーに

フランスのサンテティエンヌ出身のトマさんは小学生の頃、アニメの『ドラゴンボール』と、セガのゲームが好きになったことから、日本に興味を持ちました。2002年、大学1年生の時に初めて訪日し、東京、京都、広島を巡る10日間のツアーに参加。翌年、京都大学に留学しました。その1年間の留学中に、京都にすっかり惚れ込んだそうです。

「京都は歴史を大切にしてるところが、フランスと似ていますよね。美味しいお店も多いし。嫌なことがあった時も鴨川沿いに座って川を見るだけで気持ちが落ち着きました」

 

もっと京都にいたいと思ったトマさんは、一度帰国した後、今度は1年間のワーキングホリデーのビザを取得して、すぐに京都に戻ってきます。ビザが切れる頃には、まだフランスに帰りたくないと仕事を探し、フランス語学校の講師に。さらにその10カ月後には、大阪の会社で働き始めました。ちなみにこの時は、京都から大阪の難波にある会社まで1時間20分かけて通勤していて、「しんどかったです」と振り返りますが、京都から出ようとは思わなかったそうです。

 

この京都愛が、新たな道を拓きます。ワーキングビザで再来日した頃から、トマさんは「La rivière aux canards / 鴨川」というブログを書いていました。日本の社会について感じたことや、日々の生活、食べたものなどについて、1日2回ほど更新していたところ、当時はまだフェイスブックもツイッターもなかったため、日本に関心があるフランス人の間で貴重な情報源として注目されるようになったのです。

 

このブログが2年、3年と続くうちに、1日のPVが800から1000にも達し、人気ブロガーに。さらに、ブログの読者から連絡を受けて仕事を請けるようになったため、トマさんは会社を辞めてフリーランスのライターになりました。

 

「日本のお弁当箱は絶対売れる!」と確信

日本や京都のニュースのフランス語による配信、フランスの旅行会社が作った京都案内のサイトへの寄稿などどんどん仕事の幅を広げていたトマさんが弁当箱で起業することになったのは、母親の言葉がきっかけでした。

 

2008年の10月頃、母親と電話で話している時に、母親がなにげなく「フランスの雑誌にお弁当のレシピが載っていたよ」と言いました。もともと、日本のものをオンラインで販売しようと考え始めていたトマさんは、母の言葉を聞いて、これだ! と直感したそうです。

 

どんな国にも、自分で料理を作って職場や学校に持っていく人がいますが、基本的にはタッパーに詰めるのが主流。でも、タッパーはデザイン的なかわいらしさはないし、仕切りもありません。デザイン性が高く、仕切りを使っておかずをきれいに詰められる日本の弁当箱を使いたいという人がたくさんいると考えたのです。

 

しかも当時は、外国人が購入できるような日本の弁当箱の専門店はなく、ネットオークションサイトで落札するしかない。「日本のお弁当箱は絶対売れる!」と確信したトマさんは、翌日からオンラインショップの制作とお弁当箱の仕入れを始め、その過程を全部ブログで公開しつつ、11月末には世界初の弁当箱のセレクトオンラインショップ、「Bento&co」をオープンしました。

意識したのは、ただ商品を掲載するのではなく、弁当箱の文化や背景を発信すること。例えば、職人の手仕事で作られた弁当箱は、産地と職人を紹介しました。こういった心遣いが、日本の文化が好きな外国人に刺さったのでしょう。

 

海外でも広まる「Bento(弁当)」

弁当箱はトマさんの予想をはるかに超える勢いで売れ始め、オンラインショップを始めてから3年で世界70ヵ国、計4万個のお弁当箱を販売したのです。この勢いに乗り、2012年4月には新京極に店舗も開きました。

その後、オリジナル商品を開発するなどお弁当箱の種類を拡充するだけでなく、お弁当箱を包むクロスやバッグといったアクセサリーやキッチン用品、ライフスタイル系グッズなども取り扱うように。僕が取材に行った2018年の時点で、売り上げは年間2億円に達しました。

今や海外でも「Bento(弁当)」という言葉は広く認知されており、「Bento&co」はその一翼を担ったといっても過言ではありません。

 

新京極のお店には、ほかでは見ないようなこだわりのお弁当箱がたくさん並んでいます。お弁当をよく作る人なら、子どもも、大人も、ワクワクすること間違いなし! ぜひ、京都旅行の際には、日本のお弁当文化を世界に広めたトマさんのお店、「Bento&co」へ!

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

Address

弁当箱専門店Bento&co(ベントーアンドコー)
〒604-8072 京都府京都市中京区八百屋町117
TEL 075-708-2164

https://www.bentoandco.jp/

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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