フォトグラファー武藤奈緒美の「みる」日々 連載シリーズ

他者の視点

暑中お見舞い申し上げます。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。

 

この原稿をしたためている7月19日現在、わたしは8月1日公開をめざして自身のウェブサイトのリニューアル作業に邁進する日々を送っています。

 

前回の投稿でも触れましたが、今度こそ途中で心折れることなく無事リニューアルできるよう、友人に進行のお目付け役をお願いしており、今のところ作業の段階ごとにもうけた〆切は無事クリア、着々と完成に近付いているはず・・・です。

3つめの〆切をクリアしたタイミングだったか、その友人から、「TOP ページに風景写真がくるの、おかしくない?」との意見をもらいました。

ちなみにTOPページは一番最初に取り組んだ箇所で、「海をあつめる」というタイトルで過去の作品の中から海の写真を10枚チョイスし、自動で切り替わる仕様に設定していました。

 

「人物撮影が得意です、と言っているよね?

でも、TOPページの海の写真を見たら風景を撮るフォトグラファーなんだと受け止められると思うけど、どう思う?」

 

彼女がメールで寄越した意見を途中まで読んだ時点で、自分の大いなるうっかりに気付きました。ほんとだわ、彼女の言う通りだわ。全くその通り、なんの否やもないわ…自分の認識のずれに気付かされました。

なんのためのウェブサイトであるかを頭ではもちろん理解しているけれど、アウトプットが伴っていなかったんです。

フォトグラファーである自らの過し方を紹介することで未来の仕事につなげる。つまり、今作っているウェブサイトは自己紹介と営業と2つの役割を担うものでなくてはなりません。

何が得意なのか、どういうテイストの写真を撮るのか、どんな瞬間を選んでシャッターを切っているのか、今後どういう仕事をしていきたいのか。

そういうことが伝わらないといけない。

ましてやTOPページはいちばん最初に見るところなので、友人の言う通りここは私が得意にしている人物写真がくるべきだし、私がどういう人物写真を撮るのかが凝縮されたページでなくてはなりません。端的にわたしが撮る写真のことを知ってもらうための数枚でなければ。

 

友よ、よくぞ指摘してくれた!他者の目のありがたさをひしひしと感じました。しかもわたしが撮るものを見続け、理解し、時には仕事の橋渡しまでもしてくれる友人の指摘はあまりに的を射すぎていて、そこに気付けないでいた自分が途轍もなく阿呆に思えたほど。

「海をあつめる」という言葉の響きが気に入りすぎていて、危うく思い違いしたまま進めるところでした。TOPページ用に選んだ海の写真はTRAVELというページに移動です。

新型コロナウィルスの影響で趣きが変わった現実、そしてもうじき50代を迎える自分のリアル。

どうにかしなきゃなと思いつつ何年も放置してしまったウェブサイトをこのタイミングでリニューアルするのは、そうした現実を前にした今、結果的に至極妥当なタイミングになったなと感じています。

 

コロナで仕事が止まったり減ったりして生じた時間の中で、自分はどういう写真を撮っていきたいんだろう、どういう瞬間を大事に感じているんだろう、撮った写真で何を伝えたいんだろう・・・そういうことをぐるぐる、何度も考えました。

 

ひとが働いているシーンを撮るのが好きだ。それってつまりどういうこと?

その仕事に集中している、のめっている、息づいている、生きている、人生の時間をそこに注いでいる・・・その集中した感じ、賭けている感じ、動くことで放たれるその人のエネルギーみたいなもの・・・言葉で的確にとらえるのはすごく難しいけれど、そういうものに目がいく。撮りたいと思う。

ポートレイトを撮影するときに「笑顔でお願いします」って型通りな言葉で笑顔に誘導するんではなく、カメラの前でふだんその人がしている笑顔を見たいし撮りたい。じゃあどうすればいい?

 

体力が落ちてくるであろう50代をどう歩んでいきたいか、コロナ後の変化した現実に自分をどう寄せていきたいか。

ぐるぐると考えを巡らせたことの結果を新しいウェブサイトに落とし込む。コロナ前と後とで自分が変化したのかどうかはわからないけれど、少なくともコロナ後の現実に向けた自分なりのアンサーがそこに込められるようにしたい。

突きつめていくと、しあわせとはどんな形をしているのか?そういうところに行き着くような気がしているんですが・・・まだ気がしているだけ。きっとそれはこれからずっと考えていく課題だろうと思います。

 

8月1日のリニューアルをお楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 

  • この記事を書いた人

武藤 奈緒美

1973年茨城県日立市生まれ。 國學院大學文学部卒業後、スタジオやフリーのアシスタントを経て独立。 広告、書籍、雑誌、パンフレット、web等で活動中。 自然な写真を撮ることが信条です。 ここ10年程で落語などの伝統芸能、着物の撮影を頻繁にやっております。 移動そのものが好きで、その土地その土地の食べ物や文化に関心が強く、声がかかればどこにでも出かけ撮っています。 趣味は読書、落語や演劇鑑賞、歴史探訪。 民俗学や日本の手仕事がここ数年の関心事項です。 撮影を担当した書籍に「柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記」(フィルムアート社)、「さん喬一門本」(秀和システム)、「かぼちゃを塩で煮る」(絵と文 牧野伊三夫 幻冬舎)、「落語家と楽しむ男着物」(河出書房新社)など。[HP むーちょで候。]http://www.mu-cyo.com

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