稀人ハンター川内イオの東奔西走記 連載シリーズ

ほかでは見られない動物に会いに行こう!埼玉県こども動物自然公園

皆さん、こんにちは! 常識に縛られず、驚くような発想と行動力で世間をアッと言わせる「規格外の稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。

 

春の日差しを楽しんでいますか? さむーい冬の間、ギュッと縮こまっていた体も、少しずつ目を覚ましてきた感じがしますよね。それはきっと、動物たちも同じ。暖かくなって、元気に動き回り始めたことでしょう。ということで、今回は、大人も子どもも楽しめる、僕が大好きな動物園を紹介します!

 

世界最大級のペンギン施設

東武東上線高坂駅から徒歩20分、もしくはバス(鳩山ニュータウン行き)で5分の場所にある埼玉県こども動物自然公園。園の名前自体は地味だけど(失礼!)、ここの取り組みや展示は実に個性的! 僕のなかでは、北海道の一大観光名所になっている旭山動物園に続くレベルのユニークな動物園です。そのことを知ったのは、今からちょうど4年前の取材がきっかけでした。

埼玉県こども自然動物公園

その頃、埼玉県こども動物自然公園には鹿ブームが到来していました。全国で初めて、南米チリからやってきた世界最小のシカ「プーズー」の飼育と展示が始まっていたのです。

ところで、プーズーはなぜ埼玉に? 

その背景には、同園の知られざる取り組みと飼育員の奮闘があります。そのヒントになるのが、フンボルトペンギンがいる「ペンギンヒルズ」。総敷地面積46ヘクタール(東京ドーム約10個分!)もある広大な同園には約200種類の動物が展示されていますが、そのなかでも屈指の人気を誇ります。

ここのペンギンたちは、緑豊かな小高い丘の上に巣を構えていて、毎日、波の出るガラス張りのプールに通ってエサを食べたり、プカプカくつろいだり、泳いだりした後、丘の上の自宅に帰るという生活を送っています。ペンギンは氷の世界に住んでいるというイメージがありますが、この環境は実際の息地を再現したものなのです。

 

ペンギンヒルズの開設にあたり、同園では南米飼育員をチリのチロエ島にあるフンボルトペンギンの保護区にまで派遣。チロエ島の環境を模するために、園内の西側に3900平方メートルの土地と、高さ4メートルを超える草地の丘、造波装置付きのプールなどを用意し、2011年の4月、世界最大級のペンギン施設をオープンしました。

 

「生息地を再現」、「世界最大級」という言葉からも、同園の気合いが伝わってきます。取材の日には、ガラス張りのプールで泳ぐ気持ちよさそうに泳ぐペンギンを見て、子どもだけでなく、大人まで大喜びしていました。

 

動物たちの暮らしを豊かにする取り組み

ペンギンヒルズはオープンしたその年、動物園や水族館による動物たちの飼育環境を豊かにするための取り組みを表彰する「エンリッチメント大賞」を受賞しました。

この賞は2002年から毎年発表されているのですが、埼玉県こども動物自然公園はペンギンヒルズも含めてこれまでに計4回、大賞を受賞しています。これは、受賞回数5回で最多の旭山動物園に次いで、全国2位。あまり知られていないが、動物の飼育環境は日本でも屈指のレベルなのです。

 

それだけに、園内は見どころ満載! カンガルーやワラビーの展示スペースでは、動物と人間を遮るものが低い位置に張られたロープ1本! 取材に行った時はたまたま蒸し暑い日で、カンガルーもカピバラも木陰でゴロンと休んでいたけれど、それでも胸がドキドキしました。

ワラビー

約5000平方メートルもある、自然のままの雑木林にはシカとカモシカが放たれていて、ウッドデッキを歩きながらその姿を探す「シカとカモシカの谷」も、ほかでは見られない展示です。目を凝らしてようやく見つけた時には、本当に森のなかで遭遇したような気分になりました。

日本ではここでしか会えない、プーズー

動物たちの生活に十分配慮しながら、来園者を楽しませる仕掛けも充実している同園の姿勢が、海外にも伝わっているのでしょう。ペンギンの視察でチリに行ったのを機に交流するチリの国立サンチアゴ・メトロポリタン公園から、2016年夏、希少動物の保存と友好を深めるために、チリやアルゼンチンなどの一部の地域にしか生息しない準絶滅危惧種のプーズーが寄贈されたのです。

プーズーの展示施設でも、チリの環境をできる限り再現。取材をして驚いたのは、担当のベテラン飼育員の方が周囲の山から葉っぱを採ってきて食べさせていると聞いたこと。その理由がまた、プーズーへの愛情たっぷりでした。

 

「飼料は少ない量で栄養が足りるように作られているから、すぐにお腹いっぱいになって食べ終わってしまうんですよ。そうなると、暇な時間が増えてしまうじゃないですか。なまの葉っぱだと、栄養素が少ないからそれなりの量を食べなきゃいけないし、噛んで、反芻して、という自然な動作も加わるから、健康に良いんです」

 

ストレスの少ない環境で、飼育員さんに手厚く見守られながら暮らしているプーズーは、リラックスできているのでしょう。僕が取材に行った2017年以来、毎年のように赤ちゃんが誕生しているようです。僕が訪ねた時も生後2か月の赤ちゃんがいましたが、体重が2800グラムしかなく、子犬ぐらいのサイズでとてもかわいらしかったです。

「世界一幸せな動物」にも会える!

昨年4月には、顔の表情が笑顔に見えることから「世界一幸せな動物」と呼ばれるカンガルー科のクオッカの展示が始まりました。生息地のオーストラリア以外で飼育・展示されるのは世界初だそうで、これも同園のこれまでの取り組みが高く評価されているからでしょう。赤ちゃんも生まれているようで、さすが! の一言。

 

クオッカも、プーズーも、その姿が見られるのは日本で唯一、埼玉県こども動物自然公園だけ。ほかの動物たちにも再会し、なんといっても春は出産のシーズン。今度はプライベートで遊びに行こうと思います。

 

稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。

 

※埼玉県こども動物自然公園の取材は2017年に行ったものです。

 

  • この記事を書いた人

川内 イオ

1979年、千葉生まれ。ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンター。新卒で入社した広告代理店を9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターに。06年、バルセロナに移住し、ライターをしながらラテンの生活に浸る。10年に帰国後、2誌の編集部を経て再びフリーランスに。現在は稀人ハンターとして多数のメディアに寄稿するほか、イベント企画も手掛ける。 『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)』 『BREAK!「今」を突き破る仕事論(双葉社)』等、著書多数。 ホームページ:http://iokawauchi.com/

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